福島県「大熊町」のみなさんが避難されている会津若松市で、弦楽四重奏の贈りもの

日本フィルの弦楽四重奏のメンバーが2011年5月4日、福島第1原発1〜4号機が立地する福島県双葉郡大熊町の方々が避難されている会津若松市を訪れました。

大熊町には客席約500の音響のすばらしいホールがあって、かつて日本フィルは町の教育委員会からの依頼で2004年に「セロ弾きのゴーシュ」で、翌2005年には「くるみ割り人形(金管五重奏と語り)」といった中規模編成の室内楽で演奏してきました。
今回「ゴーシュ」の際に地元でコーディネートしていただいた方から、「避難されている大熊町の方々と、受け入れている会津若松市の皆さんが一緒になって音楽を楽しむ機会を持ちたい」と日本フィルにお声をかけていただき、「会津若松市文化センター」の1階ロビーのフロアにて弦楽四重奏でのコンサート開催となりました。

大熊町は震災当日に、原発から半径2km圏内に避難指示が出され、翌日の1号機水素爆発で避難指示は半径20km圏に拡大され、「とにかく西へ避難するように」との指示で、3月13日、町の用意したバスで、着の身着のまま田村市や三春町に一次避難しました。その後政府により30km圏での自主避難勧告が出され、4月3〜4日の二次避難で全人口11,400人の内、3,600人がこの会津若松市内に町役場の機能ごと移りました。町内では未だ100人の安否が確認されていないとのことです。避難先は町の中心から約5kmの東山温泉を中心に、喜多方や裏磐梯など計63施設にも分かれており、「市には大変良くしていただいていますが、情報の伝達がスムーズにいかない」

美しい桜の花が残る会津若松市の観光名所「鶴ヶ城公園」に接する「会津若松市文化センター」のロビーには、市内の方を中心に55名の方にお集まりいただきました。日本フィルメンバーはヴァイオリンの本田純一・豊田早織、ヴィオラ高橋智史、チェロの山田智樹。進行役は福島県三春町出身、チェロの山田が務め、「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」「ジュピター」「サウンドオブミュージック」といったお馴染みのクラシック・ポピュラーの他、「五木の子守唄」「会津磐梯山」「見上げてごらん夜の星を」「上を向いて歩こう」「ふるさと」「世界に一つだけの花」など12曲を演奏。郷里に寄せる想いを交えての山田による曲の解説もわかりやすく、心に染み入る4つの弦楽器の音色がやさしく会場を包み、小さい声で口ずさんだり、うつむきながら目頭をあつくさせて聴いてくださる方もいらっしゃいました。

前日の3日に、大熊町では町の職員による一時帰宅の予行演習が行われ、いつ・何人まで・何時間まで帰宅を許されるのか?いつ安心して戻れるのか?町の皆さんの不安は尽きません。
被災された方々の心のケアに留まらず、受け入れる地元の皆さんとの新たなコミュニケーションを深める一助に、世代間の垣根の少ないクラシック音楽の力が果たす役割を模索しながら、日本フィルはこれからも、継続して演奏を届けたいと思っています。