冨田勲×藤岡幸夫 4.18名曲コンサートを語る その3
その3 「この1オクターブと1音ていうのは、モーツァルトのオペラにもでてこないし、だいいち子どもには歌えない」なんて言って
【手塚さんの思い出】
藤岡:先生の音楽は…。
冨田:やっぱり「ジャングル大帝」は手塚イズムですねー。
手塚さんは素直に、これはいいですねーとは言わない。「ジャングル大帝」のメロディね、これは雄叫びのつもりだったんだけど、あの奇想天外な発想をする手塚さんは意外なことに わりと常識的な判断をする。「この1オクターブと1音ていうのは、モーツァルトのオペラにもでてこないし、だいいち子どもには歌えない」なんて言ってね。当時はメールもファクスもないから連絡は電話か電報なの。
藤岡:電報ですか!
冨田:それから彼も夜も昼もないから夜中でも平気で電話してくる。それもこっちが徹夜してやっと寝られるっていうときに運悪くかけてくるのね。それで受話器をそのままそばにおいて相手が出るまで置いたまま仕事してんだ。(笑)なりっぱなしだから起きざるを得ない。それでやっと電話に出ると「あの1オクターブと1音はどうなりましたか」ってんだから。(笑)
彼は頭ごなしには言わないけれど気になりだすと気になる人なんですね。でもこの音楽は気に入ってくれたと思うけどナー。
藤岡:そうですよ。そうでなきゃこの曲のために16枚も絵を描いてくれませんよ。
【手塚イズムについて】
冨田:手塚さんはけっこう描くものが深いんですね。
それは「鉄腕アトム」にもある。たとえばアパルトヘイト(南アフリカの人種隔離政策)ね、「ジャングル大帝」には昭和23年ごろのアフリカのことが背景にあるんじゃないかと思う。
ハンターたちが白人でね、レオはマンデラ(*注)を描いていたんじゃないかなー。マンデラは手塚さんが亡くなった以降、大統領になり、その後ノーベル平和賞を取りましたがね、そのことは手塚さんは知らない。
アパルトヘイトについては手塚さんはなにも言ってないけれども、人間愛とか、(野蛮行為に対する)批判、戦時中の体験なんかがこの壮大なストーリーを作る原動力になったのではないか。僕はそんな気がしてならないんですよ。それから彼は医学博士ですからね、紫斑病など動物の病気などにも書かれたりしている。
(*注)ネルソン・マンデラ(1918年〜)…南アフリカ共和国の元大統領。国家反逆罪で、1967年に終身刑となり、1990年釈放、91年ノーベル平和賞受賞、94年〜99年まで共和国大統領。手塚治虫氏(1928年〜89年)は彼の釈放、ノーベル賞受賞から大統領就任など、全く知ることはなかった。
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