宮城県石巻市・仙台市の避難所や福祉施設などで、日本フィルの弦楽四重奏

♪体育館から世帯単位で仮設住宅入居へ、しかし新たな課題が・・・(北上中学校で仮設住宅の皆さんへ)
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「被災地に音楽を」訪問コンサートで、10月4日〜7日、日本フィル弦楽四重奏のメンバーが宮城県石巻市仙台市を訪れました。前日3日に仙台市電力ホールで、また翌4日の昼間に東松島市鳴瀬第一中学校と、2つのチャリティコンサート(主催=フコク生命)を終えての訪問でした。

石巻市は全人口約16万人の内、約4千人が亡くなったり行方不明だったりと、被災地域の自治体単位では一番の犠牲者数となりました。4日は石巻市立北上中学校で隣接の仮設住宅の皆さんに聴いていただきました。高台にある学校から見降ろす更地は、津波で建物が流され基礎さえ無くなってしまっています。一軒残った家も1階の壁が突き抜けており、津波の勢いの凄まじさを今に伝えています。私たちを迎えてくれた北上中の畠山校長は「この北上地区でも、まだ70〜80人の行方不明者がいます。役場の職員は殆どが犠牲になりました。この津波で生き残った人も、その多くが家や家族や仕事を失いました。ボランティアでなくてもいいから、街のこの異常な状況を全国の人に見に来て欲しい」とおっしゃっていました。

避難所から40人あまりの方が集まり、夜7時からコンサートは始まりました。メンバーはヴァイオリン:松本克巳・加藤祐一、ヴィオラ:新井豊治、チェロ:久保公人。
アイネ・クライネ・ナハトムジーク」、「荒城の月」、「見上げてごらん夜の星を」、ドヴォルザークアメリカ」等を演奏し、大きな拍手をいただきました。初めて聴く曲でも一音一音かみ締めるように、何度もうなずく姿が印象的でした。アンコールにタンゴの「エルチョクロ」と「星に願いを」。更なる拍手に応えての「青い山脈」に皆さん大喜び。手拍子と大きな歌声が、体育館に響き渡りました。「この体育館には、震災直後は約300人が避難、仮設住宅完成で全員が移り、現在ではプライバシーは保たれるようになりました。しかし家族を失い一戸に1〜2人で住む方も多く、孤独感や寂寥感も積もり、どうやって相互のコミュニティーを維持するかが課題です。被災地は冬の寒さ対策と心のケアへと、その課題がシフトしてきています」との校長先生の言葉が、耳から離れません。

♪近くに仮設住宅のほか瓦礫の集積場も。大学構内で癒しの調べ・・(石巻専修大学仮設住宅の皆さんへ)

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5日は、大規模な仮設住宅が近接する石巻専修大学で、大学生含め仮設住宅にお住まいの約60人の方に聴いて頂きました。大学には「災害ボランティアセンター」も設置されています。周辺には沿岸部から運ばれた大量の瓦礫や、被災した車の集積場があり、無造作に積まれた車の山に思わず息を呑みました。

広大な敷地に校舎が点在する、ゆったりとした大学で私達を迎えてくださったのは、作曲家でもある近藤裕子教授。かつては日本フィル定期会員とのことでメンバーともすぐに意気投合。演奏は授業の合間の昼休みに、学生ホールで行われました。「愛の喜び」「ジュピター」等、11曲を演奏し、「震災後から半年が経ち、今までは音楽を聴く気になれなかったけれど、ようやく音楽を聴ける生活に戻れた気がする」、「一時間も演奏してくれるオーケストラ団体は今までいなかった」、「こんなに素晴らしい演奏会を独り占めできるなんて贅沢な時間でした」と口々に喜びの感想をいただきました。「その気になれば、いつでも音楽に触れることができた日常に、一日も早く戻って欲しい」そう思わずにはいられませんでした。

女子美術大との連携、幻想的なアトリエで復興願い力強く歌う「ふるさと」・・(「あとりえDaDa」にて)


 大学から石巻湾に向かって車で30分、旧北上川沿いは更に津波の被害の爪痕を残していました、1階の壁が流され柱がむき出しになったビルや家、家の基礎だけになった更地、陸に乗り上げたまま放置された漁船等、そのどれも目の前にして、立ち尽くすばかりでした。

その中でいち早く画廊と喫茶店の営業を再開したのが、「川辺の散歩道〜あとりえDaDa」です。ここを舞台に杉並区の女子美術大のヤマザキ教授と鈴木理恵子講師と美大生は、地元の子供たちと津波で漂着した流木にペイントし「龍」を造るワークショップを行ったり、病院のヒーリングアート用に、クレヨン・水彩・パステルカラー・アクリルカラーといった様々な画材で、動物を布に描いたタペストリーを、演奏会場のアトリエに掲示してくださっていました。参加した女子美関係者は、ヤマザキミノリ教授「アートデザイン表現学科ヒーリング表現領域」、鈴木理恵子講師、ヒーリング造形大学院学生〜岡田樹、加藤祐子、洪惠娟 (ホンヘヨン)、Jude《オーストラリア留学生》の6名です。

中庭に設置された「龍」の体は色とりどりのウロコで覆われ、近づいて見ると、そのウロコ1枚1枚が色鮮やかで、「手をつないでがんばろう」などの復興を願うメッセージも書かれていて、思わず胸が熱くなりました。
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40人程でいっぱいのアトリエに入って、日本フィルのメンバーは壁に掛けられた、色彩豊かに生き生きと描かれた動物たちのタペストリーに目を奪われました。この躍動感溢れる空間での演奏は、きっとお客様に生きる希望をもたらすのでは?と誰もが思いました。午後4時、このアトリエを馴染みとする地元の方々が三々五々集まり、熱気に溢れています。「素敵な絵と日本フィルの演奏を皆さんで堪能し、元気になりましょう」三浦頼子オーナーの挨拶で、メンバーの入場です。お客様の年齢層に合わせ「荒城の月」、「エルチョクロ」、「イエスタディ」など懐かしい曲を中心に1時間はあっという間です。鎮魂の祈りを込めた「G線上のアリア」で、目頭を押さえる方が多くいらっしゃいました。
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アンコールの「ふるさと」は、お客様の心のこもった大きな歌声が会場いっぱいに響き、日本フィルメンバーも感極まった様子。もう一曲「青い山脈」は、大きな手拍子も加わり会場は大興奮!演奏直後に席を立ちながら拍手また拍手のスタンディングオベーション!! 「遠くから車で駆けつけました。震災から7ヶ月になりますが、とても贅沢な気持ちにさせていただきました」と、晴れ晴れとした表情で話される方や、タペストリーに対する質問を女子美大生にされている方もいて、帰り難いお客様でいっぱいでした。

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♪11日を期限に退去される避難所の皆さんに、急遽、演奏のプレゼント(宿泊した追分温泉旅館にて)

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「あとりえDaDa」併設の喫茶店で温かいお茶をご馳走になり、興奮冷めやらぬオーナーやお客様との懇談が続き、気が付いたら6時過ぎ。当初の日程では、この日の演奏はこれで終わりでしたが、昨晩から宿泊している追分温泉旅館は20人の被災された方を受入れ、営業中止し避難所となっており、「10月11日には市の宿泊補助金が切れ、多くの方が地元から離れた仮設住宅に移らなければならない」との旅館の女将さんの情報で、急遽、旅館での演奏を7時30分から約束していました。

急いで車に乗り込み旅館に向かいましたが、到着したのは開演の20分前!しかしメンバーは疲れも見せず、定刻どおりの開演です。聴いていただいたのは避難されている方に加え、復興工事に従事されている職人さんや、イギリスBBC放送局の取材クルーの方、日本フィル定期会員の石巻の実家のご家族など含め約40人。旅館のたたずまいに合わせた「峠の我が家」、女将さんのかわいいお嬢さん2人のために「となりのトトロ」、イギリスにちなんで「イエスタディ」、「ジュピター」、30分あまりの演奏でしたが大変喜んでいただき、メンバーの表情も清清しさに溢れていました。

 
津波介護施設も容赦なく飲み込み、入所者は仙台へ避難・・・(仙台市介護施設の皆さんへ)
 
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前日5日の大学&アトリエ&宿泊避難所と3ステージをこなしたメンバーは、仙台市内の介護施設へ向かうため、6日早朝に名残惜しくも石巻を出発しました。今回の震災と津波で多くの介護福祉施設も被災し、宮城県内では仙台市内の施設へ転所された方が多くいらっしゃいます。向かう先は仙台中心部から北に車で30分程、泉区介護老人福祉施設「泉ふるさと村(泉白陵会)」です。

ここには福島から入所された方も含め、利用者約120人中20人は震災後に来られたとのこと。車椅子やストレッチャーに乗られたお年寄りも含めロビーは満杯。「みなさん、ちゃんと息してますか〜ッ?演奏聴いたら、約束どおり大きな拍手ですよ〜ッ!それでは日本フィルの皆さんお願いします!」施設長の明るい挨拶で演奏開始です。最前列に陣取り、演奏に合わせ気持ちよさそうに体を揺らすおばあちゃん。介護ボランティアさんのリードで「青い山脈」を歌うおじいちゃん・おばあちゃんに、メンバーも思わず弓に力が入ります。「ご家族と離れ沿岸部から移られたお年寄りは、面会の方も頻繁には来られず、寂しい思いをされています。こんなに元気に歌う人だったのか?と改めて思わせてくれる方がたくさんいました」。施設職員の方の、上気しつつ話された笑顔が今も忘れられません。

                                       
♪五感を刺激する生の音楽が、素直な反応引き出しました(仙台市の障害者施設の皆さんへ)
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10月7日この行程の最後の訪問地は、昨日と同じ泉区の総合福祉施設「愛泉会」です。こちらも仙台湾沿岸部で平地の殆どが浸水した若林区荒浜地区の施設から50人を受け入れています。会場は知的障害者施設「幸泉学園」の食堂で、隣接の介護施設のお年寄りも含め、20歳代〜70歳代の約50人の方々に聴いていただきました。

「愛の喜び」「となりのトトロ」「エルチョクロ」などテンポのある曲を中心に、楽器紹介も交え8曲を演奏。アンコールに「ふるさと」、何所でも大受けだった「青い山脈」で大喝采。楽器をケースに収め退場しようとしたメンバーに突然、三度「アンコールッ!」の声が掛かり、メンバーも笑顔でもう1曲「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」の4楽章をプレゼント。生徒さんの素直な反応と、一緒に聴いてくださった職員の方々も日頃の仕事の手を休め、演奏に浸っておられる様子に、改めて生の音楽の力を感じました。