公演担当といっしょに、東京定期を聴こう 第9弾 ベルク《ルル》の巻 その2

その2.それは愛の歌?

♪引き続き<ルルの歌>

「連中がわたしの所為で自殺しても、私に取ってはなにも関係のないことよ。あなたは理由があってわたしを妻にした。わたしも理由があってあなたを夫に選んだ。でもあなたは私のことで自分自身までは偽れなかった。残り少ない人生をわたしのために犠牲にしている、とあなたは言うけれど、あなたには私の青春のすべてを与えてきた。わたしは世間が思い描くとおりの女を演じてきたし、それでよかった。そして世間はあるがままのわたしを受け止めたのよ。」
と、非常にルルという女の象徴的なシーンでもあります。はたしてこれは「愛の歌」なのかどうか・・・

●このオペラの台本はどこから来たんですか。

フランク・ヴェデキントという作家の《地霊》と《パンドラの箱》という二つの小説を、ベルク自身がつなぎ合わせて一つのオペラ台本に仕立てたんです。

●どうして、そういう話に食指が動いたのでしょうね。

ヴォツェック》が超ダメ男の話だったから、次は超イケイケ姉ちゃんのルルだった、なんてね・・・

♪ 第4曲<変奏曲>

ルルが警察に追われている場面の音楽だと言えば、それっぽく聴こえるでしょ?

そしてこれから聴くのが終曲の<アダージョ・ソステヌート>。

♪ 第5曲<アダージョ・ソステヌート>

ここで歌手が歌うのはルルではなくて、ゲシュヴィッツ伯爵令嬢という人です。彼女はルルを深く愛している。つまりレズビアンですよね。常にルルと一緒にいて、ルルが投獄されたときもゲシュヴィッツは自らが身代わりになって彼女を逃がしたりします。

終幕のこの場面では、ルルに関係する男たちが死んだり逃げたりしてしまった中、街娼となったルルが男(実は切り裂きジャック)を連れ込んできます。ゲシュヴィッツがルルへの想いを悶々とさせていると、突然扉越しにルルの “nein,nein,nein!”という叫びと「キャー!」という断末魔が響き渡ります。つまりルルがジャックに殺されたわけですね。次にゲシュヴィッツもジャックに刺されるのですが、その今わの際にゲシュヴィッツが歌うのが、この「ルル、私の天使」なのです。救いもへったくれもない、実に暗く重いオペラですよね。

実際のオペラ上演では、ルルとゲシュヴィッツは当然別の歌手が歌うのですが、今回は林さんが一人二役を演じます。最後に歌詞を。
「ルル、私の天使。もう一度姿をみせて。ずっとそばにいるのよ。このまま離れないわ永遠に。」
ま、ここは完全に「愛」ですな。

*オペラ《ルル》のあらすじは下記HPをご参照ください。
http://www.biwako-hall.or.jp/event/detail.php?c=957