公演担当と一緒に、東京定期を聴こう。第9弾 ベルク《ルル》の巻 その1

アルバン・ベルクのオペラ《ルル》


全曲演奏すると3時間ぐらいかかる全3幕から成る作品です。ただ生前ベルクが完成させたのは2幕まで。ただベルクは亡くなる前に《ルル》の組曲版(これが今回演奏するもの)を作っていて、その中には2幕の音楽と3幕の最後の部分が含まれているのです。

1937年の初演以降、しばらくの間は完成された2幕と組曲版の一部分(三幕に相当する部分)を演奏するのが通例となっていました。

ベルクの未亡人はシェーンベルクやツェムリンスキーにお願いして完成を試みたのですが、結局は全員に断れてしまった。それ以降、彼女は第3者の手で補筆されることを一切禁じたのです。けれどもベルクの版権を持っていた出版社(ウニヴェニザール)が、こっそりと、ツェルハという作曲家に完成を依頼していました。そしてツェルハは15年かけて《ルル》を完成させました。ベルクの奥さんも亡くなったこともあり、ツェルハの3幕版が世に出たのですが、今度はアルバン・ベルク基金からクレームが付けられ裁判沙汰になります。でも最終的には、「1・2幕」版と、「3幕」版を別々に出版することで事なきを得たわけです。そしてこの全3幕版が1979年にピエール・ブーレーズの指揮でパリにおいて初演されました。

●なるほど。ベルクには3幕まで作る意図があったんですね。

《ルル》組曲は1934年に作曲されました。第1曲<ロンド>、第2曲<オスティナート>(これは第2幕に登場する無声映画の部分流れる曲です)、(実際のオペラの順序とは逆なのですが)このあとに第3曲<ルルの歌>があって、第4曲が<変奏曲>、そして第5曲<アダージョ・ソステヌート>(これはオペラの最終場面です。)という構成です。
まずちょっと聴いてみましょうか。
第1曲<ロンド>。これは14分あります。

♪第1曲<ロンド>

●前回のラフマニノフの1番シンフォニーでは「メロディーを口ずさめない」と言いつつも、演奏会終わった頃には歌えるようになっていましたよね。でも、この《ルル》は絶対無理・・・。こういう音楽、わたしは好きですが、もっとメロディックなものをお好きな皆さんには、どうやっておすすめするんでしょう。

たしかに美しいメロディはないけれども、響きとしては官能的じゃないですか、とても。ヌメっとした官能性が。
12音技法といったら必ず名前の挙がるシェーンベルクウェーベルンと比べて、ベルクの音楽は「ロマンティック」だと思いますよ。最晩年のヴァイオリン協奏曲も(これを書いたために《ルル》を完成できなかったんですけれど)、12音技法を駆使した作品だけど、極めてドラマティックでロマンティック。

●ベルクと、シェーンベルクと、ウェーベルンは、どういう関係なんですっけ。

シェーンベルクが、師匠。ベルクとウェーベルンが、その弟子。最終的に長生きしたのはシェーンベルクなんです。歳の師匠と弟子の年の差は10歳くらい。

では次に無声映画の音楽を聴きます。

♪第2曲<オスティナート>

ルルが殺人の罪で収監され裁判を行い、隔離病棟に送られ脱獄するまでのシーンを無声映画で表現されます。オペラに映画というメディアを取り込んだ先鋭的な部分ですね。

●実際のオペラでも見どころの一つですよね。演出によって映画の内容も変わるわけですし。

次は第3曲<ルルの歌>。

♪ 第3曲<ルルの歌>

●ここで林さんの歌声が聴けるわけですね。林正子さんと《ルル》って、とても合う気がします。

そうでしょう!以前彼女が二期会公演でツェムリンスキーの《フィレンツェの悲劇》を歌った姿が僕の頭に焼きついています。
ちなみに林さんは今スイスにお住まいで、山田和樹さんもスイスロマンド管の首席客演になるわけで、お二人には「スイス」という共通点があります。

●この部分は、一応シェーン博士への「愛の歌」なわけですか?

ふふん。あとで、歌詞を読みますから、ご期待下さい。