福島県いわき市の3箇所で弦楽四重奏、そして金管クリニック

今回の震災では、さまざまな団体がそれぞれの特色を生かしてボランティア活動を行っていますが、被災地いわきに定期的に「青空レストラン」を派遣しているケータリングの会社から、一緒に演奏をプレゼントしたいという申し出を受け、避難所だった学校を訪問しました。

 この会社は自ら「たつみ皆援隊」と名乗り、会社の敷地内で地域の方々とともにバザーを行い、その収益をもとにいわき市の学校の避難所の一角に「無料本格イタリアンレストラン」を開設、蝶ネクタイをしたウエイターがテーブルクロスのかかったテーブルに陶器の食器で温かいコース料理を提供するという、洒落たサービスを提供してきました。被災者を「炊き出し」漬けにさせない、食事の「文化」をとりもどしてあげたい、という心意気に私たちも感動しました。避難所はすでに閉鎖されていますが、この学校の校長先生を通じて、10月20日と21日に二つの学校と集会所で演奏をプレゼントしました。

 弦楽四重奏団に同行し、江名中学校の金管バンドに楽器指導を行った伊波睦(トロンボーン奏者)によるレポートです。

♪震災の爪痕、所々に・・・。弦楽の伴奏での校歌斉唱と金管クリニックで中学生励ます


アクアマリン福島

 10月20日午前8:00東京駅ロケバス出発、目的地は福島県いわき市常磐道のインターをおりたとたん車がジャンプ。ああこれが地震の爪痕なのだ。風景は、ぼけっとしていると地震があったなんて気がつきません。予定より早く着きそうなので、小名浜の「アクアマリンふくしま」へ。津波のため割れた分厚いガラス水槽。瓦礫で作られた野外舞台。テレビでさんざん観たことが現実におこっているのです。次にこのコンサートの世話役の一人Wさんの家に途中下車。被災者であるご本人から説明がありました。海沿いのこの家は幸いにして残りましたが、市民へ津波警報を伝えるため犬を繋いだまま自宅を出たためワンチャンは3日後に犠牲になって見つかったとのこと。  


瓦礫で作られた野外舞台
 
その後、避難所になっていた高台にある江名中学校に到着。ここの体育館には6月まで150名の方が暮らしていました。そこへ救援物資を運び炊き出しを続けていた「たつみ皆援隊」が今回のコーディネイターで、日本フィルに演奏を依頼。コンサートが実現しました。

 今回の弦楽四重奏のメンバーは日本フィルOBのヴァイオリン三本克郎、ヴィオラ山下進三、チェロ奈切敏郎、それに現役ヴィオラ新井豊治のお嬢様、新井布実さん。日本フィルは東京定期演奏会のため、代演で応援に駆けつけていただきました。到着後休憩もとらず、体育館の音響の良い所を探し大急ぎで舞台セッティング。舞台といっても体育館の運動スペースに椅子と譜面台を4セット並べるだけ。体育館を横に使うか縦に使うかで音響効果は違うのです。江名中学校では横にしました。

 すでに用意してあった父兄用の椅子も並びかえます。演奏者はリハーサル中。リハーサルで重要なのは校歌の打ち合わせです。先生にテンポの指示を仰ぎます。学校から送っていただいたピアノ譜を元に各自音を拾っていきます。弦楽四重奏用の楽譜はないため、ピアノ譜からの採譜には苦労します。
 
今回のプログラムは、モーツァルト:ディベルティメント、クライスラー:美しきロスマリン、愛の悲しみ、愛の喜び、ドヴォルザーク:弦楽四重奏曲アメリカ」より第1楽章、レノン&マッカートニー:イエスタデイ、校歌。

 45分しっかり聴いていただきました。生徒代表の挨拶は「津波で家は壊れ、町は閑散として、とてもせつない思いで暮らしていました。しかし、今日はじめて、ピアノや吹奏楽部の演奏でない、弦楽器で演奏される校歌を一緒に歌って、気持ちがフレッシュになりました。また頭を切り替えて、前向きにものごとに取り組んで生きたいと思います。」原稿も見ず、自分のことばで、顔をしゃんとあげてはっきりと話してくれ、私たちの心にも響くものでした。

放課後、吹奏楽部の指導を伊波睦が担当しました。優秀なバンドでコンクールでは良い成績をとっています。今回は基礎であるチューニング、バランス、ブレスの仕方等、体験をまじえた話から自ら感じ取ってもらうことをやってみました。とても熱心な態度で感心しました。あまりにも元気な返事なので、今日は返事無用をお願いすると、どうしても習慣で「ハイ」が出てしまいおかしかった。


♪地域の皆さんにも、弦の調べをプレゼント。アフターの懇親会は有意義な交流に・・・。

 夜は下神白第一集会所で町民へのコンサート。45人ほどのアットホームコンサートは室内楽を身近に楽しんでいただきました。その後の懇親会で震災後の様子をうかがうことができたのは貴重でした。やはり報道では伝わらないことがあるのです。紙面で書くことをためらうことも・・・。



弦楽四重奏をまじかに耳と目で体感 


内郷第二中学校

 翌日は内郷第二中学校ヘ。ここは先日の江名中学校の校長先生が8月から赴任した学校。その縁でコンサートが実現。生徒数150名と少ないため、演奏者を囲むように座ってもらいました。カブリツキ。これって演奏者にプレッシャー。おかげでとても緊張感のあるコンサートになりました。担任の先生にももっとコンサートを楽しんでいただきたかったです。どうしても生徒の態度が気になってリラックスできないのですね。今度プライベートでコンサートに起こしください。校長先生はいたく弦楽四重奏版の校歌がお気に入りで、特別に後で録音して差し上げました。この校長は名物校長で地域に完全に溶け込んでいます。


今回初対面の時、「たつみ皆援隊」の稲田さんにうかがいました。なぜこのボランティアをしているのか。その答えは明快でした。「何の縁もないひとどうしが、利害関係もなく何かをする。それが楽しい。」本当にそのような人たちでした。


日本フィル「被災地に音楽を」訪問コンサート実施一覧

2011年

4月6日福島県二本松市和文化センター避難所
5月4日福島県会津若松市文化センター
5月6日埼玉県加須市騎西小学校(福島県双葉町児童対象)
5月8日宮城県名取市増田西小避難所
        同市閖上(ゆりあげ)地区日和山
        同市文化会館避難所
5月9日宮城県気仙沼市階上(はしがみ)中学校避難所
        同市松岩公民館避難所
        同市面瀬中学校避難所
5月10日宮城県石巻市石巻高校避難所
        同市湊小学校避難所
        同市門脇中学校避難所
        同市石巻中学校避難所
        同市北上子育てセンター避難所
5月12日埼玉県加須市騎西中学校(福島県双葉町生徒対象)
6月4日岩手県花巻市山の神温泉「幸迎館」
6月5日岩手県釜石市甲子中学校避難所
    岩手県大船渡市リアスホール避難所
    福島県三春町田園生活館避難所
6月6日福島県三春町営体育館避難所
        同町三春小学校避難所
6月25日福島県二本松市JICA二本松研修センター避難所
        同市あだたら体育館避難所
    南相馬市鹿島保険センター避難所
6月26日福島県大玉村 フォレストパークあだたら避難所
    南相馬市原町第二中学校体育館避難所
    道の駅南相馬/原町第一小学校体育館避難所
7月10日宮城県南三陸町 ホテル観洋避難所
7月11日同町志津川中学校多目的ホール
8月6日宮城県気仙沼市 日本バプテスト教会(愛耕幼稚園内)
       同市小泉中学校避難所
       同市階上小学校避難所
10月4日宮城県東松島市立鳴瀬第一中学校
       石巻市北上中学校(避難所近接)
10月5日   同市石巻専修大学(避難所近接)
       同市「アトリエDaDa」(協力:女子美術大)
       同市追分温泉旅館(避難所)  
10月6日   仙台市「泉白陵会」(介護施設)
10月7日   同市「愛泉会」(障害者施設)
10月20日福島県いわき市江名中学校
       同市下神白第一集会所
10月21日   同市内郷第二中学校   


10月25日現在の募金総額 6,536,562円(会場募金2,808,989円、郵便振替・銀行振込等3,727,573円)