【福島市松川町の4箇所で弦楽四重奏】

 今年8月初めに福島市松川町の商工会職員のTさんからメールが届きました。その内容は、
「 震災後5ヶ月が経過しようとしており、ライフラインこそ復旧はしてきておりますが、福島県民は放射能物質という『目に見えない敵』と、今後、終わりが見えない戦いをしていかなくてはなりません。私達の仕事の一つに、その放射能物質から避難されてくる方々を迎え入れる体制をとらねばならず、またその生活等の支援事業に対応していかなければなりません。 見知らぬ土地での仮設住宅生活に予想以上の不安やストレスを抱えることになると思われます。そこで貴団体様のお力添えを頂き、避難されてくる方々のために、少しの時間でも音楽で癒し、励まして欲しいと思っています。また私は中学生の子供を持つ一人の母親として、私の子供が通う中学校へも音楽を届けてほしいのです。吹奏楽部員でトランペットを担当しておりますが、震災の影響で練習もままならず、先日の県内での地区大会では非常に悔しい思いをしました。どこへ行くのにもトランペットのことばかり考えていた子供なだけに、何と言葉で励ましてよいかわかりませんでした。本来ならば明るい未来が待っている子供達、夢や希望を持つべき子供達なのに、放射性物質と向き合った学校生活を送らねばならず、そのせいで転校していった友達や避難してきた友達を迎え入れる等、不安定な生活を強いられています。そんな環境の中にいなくてはならない子供達も音楽で励まして欲しいのです。」
というものでした。私たちは「行きます!」と即答しました。11月24・25日の両日で4回の弦楽四重奏のコンサートを企画していただくように、お願いしました。

♪「までい(待て=ゆっくりとていねいに)の村」から全村避難をやむなくされた飯館村のみなさんも参加


飯館村仮設住宅

今回のメンバーは日本フィルOBのヴァイオリン三本克郎、ヴィオラ山下進三(郡山出身)、チェロ奈切敏郎(川俣町出身)、そしてフリーで活躍している中村ゆか里さんの4人です。主催は松川町商工会商業部会「福島の元気は松川から」プロジェクトです。商工会の職員が総出で事前の準備と当日の会場運営をしました。新聞折込での宣伝や、仮設住宅へのチラシ配布など行き届いた準備がされていました。24日は午後2時から特別養護老人ホーム「みず和の郷」にて。隣の保育園から20名の子どもたちが最前列に並び、車椅子の入所者が80人、そして職員の方が30人集まりました。冒頭所長さんが「3.11以来悲しいことばかりでしたが、今日は幸せを分けてもらいましょう」とやさしく呼びかけました。今回のプログラムはモーツァルト:ディベルティメント、クライスラー:愛の悲しみ、愛の喜び、そしてドヴォルザーク:[アメリカ]より、です。子供たちも大人も高齢者もじっと耳を傾けていました。ここから次の会場に移動する途中で、全村避難をしている飯館村のみなさん700名が暮らす仮設住宅に立ち寄りました。日本で一番美しい村「までいの村」飯館からの撤退、
3世代が同居する大きな家からの移転、どんな悔しい思いをされているのでしょうか。心がつまります。


(飯野学習センター)

次の会場は飯野地区にあります。ここには飯館村役場の出張所があります。村長室で副村長の門馬伸市さんにお目にかかりました。部屋の中は全国からの励ましの言葉であふれていました。福島市への合併を拒否し独自の村づくりを目指してきた飯館村の6000名の村民を守るため、80名の職員の方たちが、夜遅くまで忙しく仕事をされていました。6時半から飯野学習センターでコンサート。150名の入場に商工会のみなさんもびっくりされていました。仮設住宅からもたくさんの参加がありました。隣町の川俣町出身のチェロの奈切さんの同級生や先生らが駆けつけたくさんの「差し入れ」をいただきました。1時間のプログラムの最後は「ふるさと」の合唱。ここでも「砂に水がしみ込むように」音楽が届いていることを実感しました。

♪「音楽を聴いて硬くなった心に隙間が空きました。やさしくなれそうです」


(松陵中学校)

翌25日は午前中に市立松陵中学校を訪れました。授業再開以来、生徒たちはこの大きな体育館で体育や部活を行ってきました。朝の授業で女子が柔道、男子がダンスをやっていました。体育館には450名の全校生徒が整然と並び、先生と地域の方も約50名が参加しました。びっくりする位、静かにおとなしく聴いています。最後に生徒会長が大きな声で「音楽とは人と人をつなぐすばらしいものです。ハーモニーが心に響き、勇気付けられました。僕たち松陵中生徒は今回の出来事には負けません。以前の生活をとりもどすため、前進していきます。」とお礼の言葉を述べてくれました。

午後は当初は福島市南体育館の予定でしたが寒くて、とても大きい会場なので、急遽となりの研修所に移動。ここは畳敷きの和室で暖房もきいています。約100名の方が集まりました。演奏者との距離も近く、みなさんは座布団の上に座って自由な雰囲気。食い入るように演奏を見つめる人、目をつぶってじっと聞き入る人、それぞれの表情が音楽に集中してひきしまっていました。「アメリカ」の終楽章が終わると、わっと大きな拍手がわき、アンコールにビートルズ「イェスタディ」。その世代の方々の心に暖かく響いたようです。さいごの「ふるさと」の合唱では涙をぬぐう人もいました。


地震原発事故から9ケ月、福島では日々びっくりするような新しい事実が加わり、ますます困難で複雑な環境となっています。
人々は想像を絶する苦難へと変わった「今」と「これから」に向き合わねばなりません。「心の奥に大きなしこりができて」「心がすり減り」「心が折れそうだ」という表現をたくさん聞きました。「音楽のなかに身をひたすことで、硬くなった心に少し隙間が空きました。やさしくなれそうです。」という感想をいただきました。

11月30日現在の募金総額 6,653,062円
(会場募金2,808,989円、郵便振替・銀行振込等3,844,073円)

このコンサートは、
「公益財団法人ローム ミュージック ファンデーション」のご支援を受けています。