一緒に東京定期を聴こう。第9弾ラフマニノフ交響曲第2番の巻 その1 第1楽章〜第2楽章まで。
本日の会議室には初参加のメンバー(△)も登場。ヴァーチャルコンサートは突然ポピュラー音楽より始まりました。でもこの曲、どこかで聴いたことがあるような・・・
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…まずはお聴き下さい。
♪All by myself(歌 エリック・カルメン)
△セリーヌ・ディオンが歌ってたのを覚えてますが。
これの元ネタ、分かります?
今クラリネットが吹いているメロディをエリック・カルメンが歌っているわけです。
△●なるほど!
同じ彼がこんなのも歌っているんです。
♪恋にノータッチ Never gonna fall in love again
イントロがなぜかカーペンターズっぽいんですけど・・・(笑)。
△すごく似てますね(笑)。
このメロディ。元ネタはこれなんです。
テンポは全く違いますが、メロディはそのままなぞってますよね。つまり、ラフマニノフの書いたメロディは、ポップスでも通用するような、非常にロマンティックなものなんですね。「ベタベタ」と言ってもいいくらい。
日本人作曲家の作品にも「ラフマニノフ・チック」な曲があります。ちょっとこれを聴いて下さい。
♪久石譲 Nostalgia
●なんだか、ミュージカルみたいですね。
そうですね。久石さんがラフマニノフを意識しているのかどうかはわからないけど、和声の進行は似てますよね。エリック・カルメンほどあからさまではないけれど。(歌う)この2段階で下がってくるところが。ラフマニノフのメロディって、日本人の心だけでなくて世界中で琴線に触れるものなんでしょうね。エリック・カルメンにしろ久石譲にしろ、あとは、映画音楽でもこの手のメロディはよく出て来るんですよね。いわゆる「泣かせどころ」とかに。
ただラフマニノフ自身がどの程度「泣かせる」ことを意識して書いていたか分からない。というのは、彼がこの曲を書いているのは1906年とか07年とかですから、まだ映画音楽というものは(ゼロではなかったけれども)発達していなかったわけですから。
で、この曲はドレスデンで書かれたのですが、初演されたのはペテルブルクでした。以前ラザレフさんの記者会見でも話題になりましたが、ラフマニノフはペテルブルクで行われた交響曲第1番の初演で大失敗し、それが原因で病気になってしまった。その後精神科医ニコライ・ダーリの暗示療法によって復活を果たし、先ほどのピアノ協奏曲第2番を1901年に書き上げたわけです。そして1907年にこの第2シンフォニーが書かれました。ラフマニノフは意趣返しじゃないですけれど、この曲を第1番で地獄を見たペテルブルクで初演しているんですよね。
ところで1907年という時代は、既にウェーベルンとかシェーンベルクとかが出てきている時代。つまり12音技法が勃興して次第に音楽が「調性」を手放し始めた頃なんです。マーラー(1911年没)も最晩年は調性音楽のギリギリの際までいってしまって、例えば最後の交響曲10番では一気に9つの音がガーッとなる瞬間が出てきます。それに引き替えラフマニノフは、調性から離れることなく、むしろその可能性を最大限に探ったわけです。
さてこの交響曲第2番ですが、初演では大成功を納めました。でもいかんせん長いんですよ。全曲演奏すると60分ぐらいかかるので、ラフマニノフ自身が認めてしまったカットがあるんです。あと1楽章の提示部を繰り返す、繰り返さないとか・・・。1950年代ぐらいまではカット版で演奏されてようです。でも現在N響首席客演指揮者を務めるアンドレ・プレヴィンが、全曲版の譜面見直し録音したことで、再評価が進みました。どうやらプレヴィンはロシアの大指揮者ムラヴィンスキーから全曲版スコアのことを教えてもらったようです。ただ不思議なことに、ムラヴィンスキーが指揮するこの曲の録音というのを僕は聴いたことがないです。
編成としては3管編成(ホルンは4名)で、マーラーに比べればそんなに極端に大きな編成ではありません。ハープもないですし。ただ全編に渡って甘いメロディが流れていて、学生オケの皆さんなどは非常に好きですよね。
△なるほど。
それでは作品を聴きましょう。まずは第1楽章です。
●暗い。
最初は暗いです。でもこの後すぐ、他の楽章でも頻繁に出てくる旋律が弦楽器に出てきます。
♪同
そういった意味ではシンフォニー(響き交わし)しているんですよ。各楽章ごとの連関があって。
で、若干この序奏が長いんです(4分くらい)。初めて聴くとちょっと長いな、と思われるかもしれませんね。
●全部で60分?
そうです。
●ラフマニノフ、とても「やる気満々」で書いたんでしょうか。
やる気だったでしょうね。ピアノ協奏曲第2番も成功したし。
♪同
同じ音型を繰り返し、繰り返しなんだけれど、楽器の組合せや和音を変えることで様々な色彩を導き出していますよね。
このあとのファーストヴァイオリンがものすごくロマンチックに聴こえます・・・ここね。
●なんだか、「ひっぱり出す」感じがしませんか。とても暴力的な。このメロディを弾くヴァイオリンの皆さんとか、体力、いりそうですよね。
△そうですね。
♪同
このあたり、やっと主部。第1主題がでてきます。ここから。アレグロ・モデラートになって・・・。
♪同
●ロシアのメロディ感じですね。それも、泣け〜!と言わんばかりに。
ここは第2主題。木管楽器が鳴ります。弦楽器はさざめきみたい。ちなみ第1楽章は18分かかります。結構長い。
△うーん。
♪(早送りされています)
この、弦の「ダガダダーン」という挿入は、第2楽章にも出てくるモチーフの一つです。
ここは3楽章に出てくるメロディですね。
●初めてマスミツさんがこれを聴いたのは、いつですか?
高校2年だったと思う・・・。
△細かく、よく覚えてますね(笑)
というのは、クラシックのCDを買い始めた時、とにかく「交響曲全集」って書いてあるCDを買いたくて・・・ラフマニノフは2枚組で済んだんですよ。2800円のグラモフォンのマゼール指揮、ベルリン・フィル。ラフマニノフって名前は聴いたことあったから。そしてこの2番聴いたら、「これはなんだ!」と。特に3楽章のメロディを聴いたら一発で虜ですな(笑)
♪早送り
こういう暗いファンファーレ的な音は、1番のシンフォニーとちょっと似ているかもしれません。1番にもこういうロシア的な、暗い音のファンファーレがありましたよね。これは晩年の《交響的舞曲》に至るまで、ラフマニノフの管弦楽曲に流れている一つの要素ですよね。あとここら辺の弦楽器なんて「海」っぽいですよね。荒涼とした広大な大地というか、重たい感じ。
●海か・・・。ところで、交響曲第1番についてこの企画をした時にも、第2番って結構聴きましたよね。
そうですね。
●その時にも(第1番の回なのに)結構第2番について語ってますよね。
だって、好きなんですもん(笑)
まあ、1楽章はこうやって、比較的曖昧模糊な感じです。もちろんその後にも活用される重要な主題が色々出てきてはいるのですけど。まあベートーヴェンのシンフォニーに例えると、まだ葛藤している状況ですよね。起承転結の起。色々なものが出てきて絡み合う未分化な感じ。で、ずっとこんな風に続きます。
第2楽章に行きます。
第2楽章はスケルツォ楽章にあたります。
●スケルツォ楽章って?
簡単に言うとテンポが速いってこと。
●1楽章に比べると、「立体的」に音が聴こえてきます。
そうですね。
●ステレオっぽいというか。
勝手に僕のイメージですが、馬にのって騎士が疾走するような感じが想像されます。ここで出て来るのはグレゴリオ聖歌の《怒りの日》のメロディなんです。第1番の時にも《怒りの日》は重要な要素だったんですけれど、この第2楽章にもあとで出てきますけれど、《怒りの日》の音がはっきり出て来るところがあります。
♪同
ここで、中間部になります。これまでは縦の線だった音楽が、メロディアスな弦楽器の響きによって横の音楽(?)になっています。まるで第3楽章の予告のように・・・。
♪同
●どうしても「風と共に去りぬ」的なイメージが思い浮かぶのですが。
そうですね、《タラのテーマ》みたいに壮大な。
●そうそう。
△大地に立っている感じね。
・・・チェロとホルンを重ねるオーケストレーションとか、ブラームスもよくやりますが。
♪同
またAの部分が戻ってきます。
♪同
前も言ったかもしれませんが、僕は高校時代にこの第二楽章冒頭のテーマをホルンで吹いては一人悦に入ってましたとさ・・・孤独!(笑)
●かっこいいメロディですものね。
♪同
ここがABA「C」の部分になるかな・・・。無音状態からいきなりジャン!っと鳴ります。曲想ががらりと変わります。びっくりしないで下さいね。
♪同
ここからCです。《死の舞踏》のような気がしなくもない。
ここで小太鼓が出てきました。小太鼓もラフマニノフのシンフォニーにはよく出てきます。ピアノ協奏曲の第3楽章にも出てきます。妙な焦りというか、軍楽隊っぽい感じがちょっとしてくるんですけれど。
ここで一番大きな盛り上がりになります。ラフマニノフっぽいところ。
まあ、踊りの音楽といえば踊りの音楽ですけれど、かなり暗いんですよね。死に急いでいるというか。ショスタコーヴィチの急速楽章を聴いているような感じがします。
△第1楽章はチャイコフスキーみたいな感じがしました。
ああ、そうかもしれませんね。
●どうやって終わるんですか、2楽章は。
♪同〜《怒りの日》の旋律も聴こえてきます・・・。
まるで花が地面にポトリと落ちるように、静かにあっけなく終わります。
♪同〜とてもしずかに終わります。
で、第2楽章はおしまい。
いよいよ第3楽章に行きます。まさしくこの交響曲の要といっておよいでしょう。そしてその中でも最も重要な役割を担うのがクラリネットです。ラザレフもこの点を前回来日の時に、再三マネジメントに語っていました。
・・・その2に続きます。