一緒に東京定期を聴こう。第9弾ラフマニノフ交響曲第2番の巻 その2 第3楽章〜終楽章

では3楽章、始めの5分ぐらいを聴いてみましょう。

ラフマニノフ 交響曲第2番より第3楽章

●△これですか。さっきのエリック・カルメン

そうです。僕は大好きですが、甘すぎる、と感じる人もいるでしょうね。昔、フジテレビのドラマでも使われたようです。
ここのソロ・クラリネット。これがとても重要な役割を果たします。ラザレフもこのクラリネット・ソロについてはとてもこだわりがあるようで、前回来日の時も熱く語っていました。美しい音色はもちろんのこと、フレージングは長く、音量も必要、そして全体としての艶も・・・と。

●一抹の寂しさや懐かしさもたたえていて、きれいですね。

でもよく聴くと、このメインのメロディに加えて、対旋律とか木管の副次的な動きとかが、知らず知らずのうちに聴き手の気持ちを高揚させていってるんですよね、実は。
あ、今聴こえるメロディ(歌う)は第1楽章で既に出てたものですね。

●初めて聴く方は判らないかもしれないですね。

でもどこかで聴いたな、と感じられるかもしれない。
このあと最大の泣かせどころが来ます。

●どこか水の流れのようなところがありますね。満ち引き、という感じが・・・。

なるほど満ち引きね。でも実はだんだん聴き手は攻められて(?)いるんですよ。どんどん音楽のボルテージ上がってきている。

●△ 笑

ラフマニノフ本当に聴かせ方がうまいんですよ。それは今から考えるととても映画音楽的なんですね。核となるメロディ自体はさほど雄弁ではないんだけど、オーケストレーションやリズムを工夫することで、気付いたら知らない上の方まで連れて行かれてしまったような。

●5音ぐらいの間を行ったり来たりしながら。

△螺旋。

そう。螺旋階段で登って行く感覚ですね。

●3歩進んで2歩下がるみたいに登って行く。

このあと、ホルンが鳴ります。まだこのメロディを使います。

△他のアイディアはなかったんでしょうか。
●とても執着する人だったのではないですか。思い込んだら抜けられないような。
△この音楽、バレエの「アンナ・カレーニナ」で使っているみたいです。観たことはないですけれど。

この葉っぱの落ちて来るようなメロディと、♪タリラ ラララ〜ンを繰り返しているだけなのに。

●それを色々な楽器が担当することで、違っても聴こえます。

またクラリネットに戻ってきます。映画音楽の典型的な作りとして同じメロディを様々な場面に合わせて変奏させてゆくことってあるでしょ。核となるメロディを、どう切り貼りするかの技。そのラフマニノフのこの楽章の作りは、まさにそのはしり、という感じがしますね。

●こういう作曲家はほかにいますか?

ここまでしつこいひとは、あまりいないですよね。まあ、ベートーヴェンはその一人かも。タタタタン(交響曲第5番の冒頭)の人ですし、タタタタンだけで交響曲を書く人ですから。ただベートーヴェンはもっと形式(美)のことを考えていました。一方ラフマニノフは完全にメロディに浸っていますよね。もちろん形式が無くはないですよ。でもベートーヴェン的な意味での形式観ではない。

●今の私たちが、ラフマニノフ交響曲第2番のこのメロディを「キャッチーだ」と思って聴くのは分かるのですが、当時のロシアの人たちはやはり「きゅん」ときていたんでしょうか。

そうですね、僕も同じ疑問を思います。僕たちが感じる「切なさ」「懐かしさ」を、100年前の人たちも同じように感じたのだろうか・・・と。僕たちは普段の生活のなかで、短い尺中に聴かせどころを詰め込んだポップスに慣れているけれど・・・

△この曲が生まれた頃の人たちはどう聴いたのでしょうね。

●でもそこで、当時のロシアの人たちも同じく琴線にふれていたら、面白いですよね。人間のDNAというか。



さて第4楽章です。

ラフマニノフ 交響曲第2番より第4楽章

●3連符のつらなり、舞曲のタランテラみたいですね。

なるほど、タランテラね。

♪同〜曲想が変わります。

ここ、第2楽章がちょっと匂ってきます。そして始めと同じ個所へ。ロンド形式なので、幾度かこの明るい部分へ戻ってきます。

♪同〜弦楽器によるロマンティックな響き

ここは3楽章っぽくなります。

●この交響曲まででなくてもいいですが、他にラフマニノフ作品で泣き節炸裂な曲はありますか。

まず《ヴォカリーズ》はそうですよね。あとピアノ協奏曲第2番。《パガニーニの主題による狂詩曲》も有名な部分がありますよね。
で、話を今回のシンフォニーに戻すと、やはり第3楽章が中心なんです。その証として第4楽章に入っても、やっぱり第3楽章的な風情(?)が各所に出てくるでしょう(笑)

△4楽章でラフマニノフが何をやりたかったのか、わからなくなってきました。(3楽章に似すぎていて)。

でも4楽章はカッコいいんですよ。終わり方とかも。

●あらら、また3楽章のメロディですね。

ここは少し第2楽章の匂いがするでしょう?

●こういう疾走感のある部分と、人から心を引っ張りだすかのような長いフレーズとが、この交響曲にはあるんですね。

最後にはコラールが出てきます。
ここから一気に速度あげて終末へと突き進みます。

♪同〜最後の音が鳴る

「ダン、タカタ・タンッ」っていうリズムで終わったでしょう。ラザレフいわく「ラッフマニノフ!」なんだそうです・・・(笑)。これがラフマニノフ自身の投影かどうかともかく、ピアノ協奏曲第2番も同じような終わり方ですよね。《怒りの日》の旋律同様、ラフマニノフ作品を特徴づける大きな要素であることは間違いありません。

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