公演担当者と一緒に、オーケストラを聴こう特別編 2013年3月上岡敏之プロジェクト アルプス交響曲
オーケストラを聴きながら公演の企画制作担当者にいろいろ語ってもらう、オーケストラ版リアルタイムオーディオガイド「公演担当と一緒に、オーケストラを聴こう」。
いつもは東京定期演奏会のプログラムについて、会議室でCDを大音量でかけながら語ってもらうのですが、本日はちょっと特別編です。
日本フィルの念願叶ってコンサートが実現する、上岡敏之プロジェクトを、一緒に聴きませんか。
本日一緒に聴く曲
ブルッフ:ヴァイリン協奏曲第1番
リヒャルト・シュトラウス;アルプス交響曲
於:日本フィル会議室。
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担当者(以下略);
ブルッフのヴァイオリン協奏曲第1番。
ブルッフは、バッハやベートーヴェンのように音楽室の壁に貼られるタイプの作曲家ではないですよね。
誰でも知っているクラシックのスターではない、というのが正直なところでしょう。
でも彼が遺したヴァイオリン協奏曲第1番は、不朽の名作です。
他には同じくヴァイオリンとオーケストラのための《スコットランド幻想曲》がまあまあ有名です。
実は交響曲も3曲書いているんですけれど・・・。
ヴァイオリン協奏曲第1番に関しては、生前からかなり人気のあった曲で「私の作品の中で、この曲だけが後世の記憶に残るのだろうな・・・」と本人も言っていたそうです。
鑑賞者(以下●)かっこいい曲ですよね。
♪ブルッフ ヴァイオリン協奏曲第1番より第1楽章
キャッチーな盛り上がりをします。オーケストラのトゥッティの出し方も。なんでこんなにいい曲つくったのに、他のヒット曲がなかったんでしょうね。
初演は1868年。30歳の時の曲。82歳まで生きた人です。
この曲の初演を行ったヨアヒム(ブラームスのヴァイオリン協奏曲でも出てくる人ですが)はこう言っています。「ドイツ人は4つのヴァイオリン協奏曲を持っていて、その中でもっとも偉大なのはベートーヴェンである。ブラームスの作品は深刻さではベートーヴェンに勝るともおとらない。でも最も魅惑てきなのはマックス・ブルッフのヴァイオリン協奏曲だ」と語っているそうです。ちなみに「内面的で心の宝石とも呼べるのはメンデルスゾーンだ」とも。
ブルッフも、リヒャルトのアルプス交響曲も、上岡マエストロによるプログラミングです。
なぜ上岡さんがこの曲とR.シュトラウスをプログラムしたかというと、2楽章のここのメロディがアルプス交響曲にも出てくるテーマと類似しているのも一つの理由でしょう。
そしてブルッフ、シュトラウス、上岡というドイツの文化が培った才能同士の饗宴、というのがより大きなテーマといえます。
♪ブルッフ ヴァイオリン協奏曲第1番より第2楽章(G→E G→D G→C の音型が出てきます。)
さて、
●「企画担当者とアルプスを登ろう」ですね。
チラシには書いていませんが、アルプス交響曲には細かく副題がついています。
それでは登山開始!
まだ暗いうちから出発です。
最初のあたりは、ワーグナーの楽劇みたいですよね。
《ラインの黄金》の冒頭のように蠢いています。
スコアをみるとよく分かるとおり、弦楽器の指定があります。
18型(日本フィルの通常の定期が14もしくは16型です)なんですけれど、今回はそんなに大きなオーケストラが入るホールではないこともあり、私達は16型で演奏します。
●ところで上岡さんとこの曲を共演するに至った理由は?
まず、2010年の共演があまりにも圧倒的でした。
再共演を待ち望みこのスケジュールに叶いました。
ちょっとアルプス交響曲には小さなホールではありますが、共演の機会が少ない名指揮者ですし、なかなか演奏できない曲ですから今回はとても特別な演奏会になると思います。
さて、ここで朝の光が昇ってきます。最初のクライマックスが来ます。ハープのグリッサンドが出て来たら・・・
♪(大音量の下降型のテーマが出てきます)
シュトラウスは1908年にアルプス連峰の北東のはしにある街に別荘をもち、アルプスをみて、音で描こうとしたわけです。このころ44歳。
●この曲、ファンは多いのですか。
オーディオファンに多いんです。音の振れ幅が大きいですから。
さて、ここから私たちは山登りに入ります。
まだ最初だから元気で、テンポも速い。
そのものズバリ「登山」という副題。朝のきれいな空気を吸って、ルンルン気分で歩いています。
●ものすごく分かりやすい曲ですね。ぜひ生で聴いて頂きたい。こだわりのある人にも。
このあとバンダのホルン部隊が出てきます。アルプスの風景を表してホルンが炸裂。
♪R.シュトラウス アルプス交響曲より「登り道」〜「森への立ち入り」
「ツァラトゥストラはかく語りき」の始めみたいですよね。
森に入りました。ちょっと暗くなって。
初演は1915年ですから、その時にシュトラウスは51歳ですね。
ドレスデン宮廷管弦楽団、今のドレスデンシュターツカペレにて。
第1次世界大戦の翌年だから、結構大変な時代ですがこんなに金のかかる曲を演奏できたということは、彼の政治力もすごかったですし、お金も地位もあったということでしょう。
オケ中の金管セクションはそんなに大きくないのですが、バンダのホルンが10本ちかく!トランペット2本、トロンボーン2本、編成が大きい。
その他にウィンドマシーンとサンダーマシーンも投入されます。
ちょっと飛ばしますよ。
今度は「小川にそって歩む」。
さっきの登山のメロディも出てきます。
●・・・くねくねしてますね。
小川の流れに沿って歩いているんです。
●曲がった小川なんですね。
ちょっと「薔薇の騎士」とか「ティル・オイレンシュピールの愉快ないたずら」みたいにユーモラスでしょう。上岡さんが読響を指揮した時の「薔薇の騎士」は相当ユーモラスでしたからきっと面白いと思いますよ。
では「滝」に行きます。
●水量が増えてきているんですね。スメタナの「モルダウ」の山登り版みたいですね!
8秒で滝は終わり。今、「幻影」です。
ここでさっきのブルッフでも出て来たテーマが出てきます。ほら。この共通点は初演でも話題になったそうですよ。
今、「お花畑」です。
●なぜ、急にそんな(笑)
「幻影」をみて、「お花畑」に行っちゃったんですね。
「山の牧歌」です。カウベルが鳴っています。
マーラーの6番に鳴るカウベルは暗いですがリヒャルトは素直ですね。
ヨーデルも聴こえて来るみたいです。
なんですが、またちょっと暗くなって来て、今度は道に迷います。「林で道に迷う」
●上岡さんの音作りはかなり個性的とお聴きしましたが。
今回も冒頭部分とか、リハーサルに時間割かれると思いますよ。
前回も究極のピアニッシモを求めて、相当厳しいリハーサルが展開されたようです。
さて今度は「氷河」の主題です。これはこのあと何回か出てきます。
♪R.シュトラウス アルプス交響曲より「氷河」〜「危険な瞬間」
●トランペットが印象的な・・・。
この次は「危険な瞬間」。シュトラウスのすごいところは、「ここからが危険な瞬間です」という書き方ではなく、切り替えが曖昧なのにいつの間にか情景が変わっているということ。
気付いたら、そうなっている。
持って行き方がうまいですよね。
●石が落ちて来たりしているんでしょうか。人間が足をかけては、ころころと。
ここはワーグナーの《ワルキューレ》みたいですね。
そして、今、頂上に着きます。
●もう頂上に着いちゃったんですか。
そうらしいです(笑)。
最初は爽やかに歌っていて、このあと感情の高まりがあってドカーンと歌う。
それにしても山登りって、管弦楽曲に向いてますよね。
登って、ここが頂上で、あと降りて。
ドラマティックな構成が組み立てやすいですからね。
ここのトランペットは物凄いハイトーン。
そして、さっきの「山のテーマ」が出てきます。
ブルッフにも出て来た例の(G-E G-D G-Cという)テーマ。
次は「景観」です。これまたトランペットがすごい!金管大活躍です。
●弦はそれこそワルキューレたちが飛んで来そうなトリルですね。
この曲はR.シュトラウス作品にしては分かりやすいのでは?
2、3のテーマを覚えたらおおよその組み立てが見えてきます。
「英雄の生涯」「ツァラトゥストラはかく語りき」などよりよほど簡単だと思います。
で霧が湧いて来て、太陽が陰り始めます。
このあと「エレジー」です。
山に登って頂上を極めたあと、あたりは暗くなって来てしまう。
そのあと何だか哀しくなって「エレジー(悲歌)」。
そのあと嵐が来ます。
遠くで雷が鳴って、ポツポツポツと、雨が落ちてきました。
♪R.シュトラウス アルプス交響曲より「嵐の前の静けさ」(本当に雨粒が見えるような音がします)
〜「雷雨と嵐、下山」
今度は暴風雨が来ます。
今、雷が光った!
●こんなにすごい大荒れの嵐になるとは。・・・そして、雨がやんで来たみたいですね。
♪R.シュトラウス アルプス交響曲より「雷雨と嵐、下山」〜「日没」(雨粒がまばらになってきます)
で、「日没」。太陽が沈みます。
●よく分かります。いかにも、沈んで行きますね(笑)。
回想しながら降りているという感じですね。「えらい登山だったなあ」とか。
●降りてくる途中の嵐のすごさに比べたら、登りはあまり苦労していなかったような。
そうそう、結構簡単に登っていましたね。
行きはよいよい、という感じなのでしょうか。
これが「ヒマラヤ」交響曲だったらもっとヘヴィな曲だったと思います。
アルプスだったから、これぐらいで済んだ訳で(笑)・・・
今「エピローグ」に入りました。
●原語だと“Ausklage” 色々なテーマが出ては消えてきますね。
そして「夜」。
●終わりがこの調とは・・・安らかな眠りというより、不安な暗闇という感じ。
冒頭の曖昧模糊とした響きが回帰しました。
ところで僕、「アルプス交響曲」聴くとベートーヴェンの「田園」聴きたくなるんですよね。
●ヴィヴァルディの《四季》も思い出しました。音で絵を描くというか。アルプス交響曲は24色の絵の具を存分に使って、《田園》は三原色で描き切ったという感じ。初演は、成功だったんですか?
受けたみたいです。
みんなアルプスの風景を歓んで受け入れたようですよ。
そういえば日本は黛さんが「立山」という作品を書いて。
これこそ日本の「アルプス交響曲」ですかね。
●「絵画を見るようにではなく、私たちとともにアルプスの中を一歩一歩、歩みを進めていくように味わっていただければ・・・」(上岡さんのメッセージ)
自分が体験する感じの曲ですよね。
「参加型・体験型シンフォニー」です。
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・・・・それでは、今度はホールでご一緒に聴きましょう!
指揮者、オーケストラ、そして、ホールによっても景色が変わるアルプスへ、いざ出発。
2013年
3/29 杉並公会堂大ホール
3/30 東京オペラシティ コンサートホール
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