山田和樹の西方見聞録 番外編

9月になり、いよいよ音楽シーズン突入ですが、いかがお過ごしでいらっしゃいますか?


「今年の夏、特に8月はゆっくり休んで英気を養うことができました。シーズン初めの演奏会は、9月7日にスイス・ロマンド管弦楽団シューベルト音楽祭に出演してきます。その演奏会を終えて日本に帰国し、日本フィルとの演奏会に臨みます。」

その、コンチェルトシリーズ。。。。第二回目となりますが、企画の意図に関して、あらためてお聞かせいただけますでしょうか?


「第1回目はピアニストの小山実稚恵さんにお願いして、コンチェルトを3曲もやっていただきましたが、今回は3人で3曲をという趣向です。いずれにしてもコンチェルトに焦点を当てていく演奏会で、指揮者が企画するものとしては前例がなかったかと思います。
僕はとにかくコンチェルトが大好きで、さまざまな音楽家からそのエッセンスを吸収できる貴重な場だと考えています。ソリストの真横という最高の場所ですし(笑)素晴らしいソリストと一緒に演奏していると、身体が溶けてしまいそうな快感におそわれることがあります。これはコンチェルトならではの感動なんですね。
この感動をお客様にも体験していただきたいことと、日頃は演奏機会の少ないコンチェルトも取り上げていきたいこと、若手からベテランまで様々なタイプのソリストを紹介していきたい、という3点が大きな企画動機です。
でも、本当のことを言うと、自分の好きな曲を好きなソリストで演奏する、という自分が一番楽しんでしまおう、という想いが強いかも知れません(笑)」


今回のソリストと選択理由・曲の聴きどころ・・・・それぞれを簡単に伺えますでしょうか。


「山崎伸子さんとは、3年前に初めてご一緒したのですが、すぐにその音楽の魅力の虜になってしまいました。「音」が素晴らしいソリストはたくさんいるのですが、山崎さんはとにかく「音楽」が素晴らしいんです。正直なところ、弟子入りしたいと思いました。残念ながら自分はチェロ弾きではないので弟子入りは叶わないのですが、それでもその「音楽」を学びたいという気持ちは今でもずっと持ち続けています。昨年、大阪交響楽団ではサン=サーンスの協奏曲でご一緒しましたが、終演後に「次はシューマンで」とお約束しました。ですが、この日本フィルのコンチェルト・シリーズに登場していただくにあたって、より大きく華やかなドヴォルジャークをお願いすることにいたしました。ドヴォルジャークのチェロ協奏曲は言わずと知れた名曲。全編を通して強い「ノスタルジー」に溢れていると思います。

藤原功次郎さんは日本フィルの誇る首席奏者。看板奏者と言っても良いと思います。昨年、見事に国際コンクールで優勝され、その報を聞いた時すぐにこのコンチェルト・シリーズへの出演をお願いしようという動きになりました。藤原さんは物事を吸収しようという意欲が凄い方だと思います。オーケストラの中で演奏されていてもいつも目が輝いていて、指揮している僕が目線を向ければすぐにバッチリと目が合うのです。ソリストとしては初共演になりますが、とても楽しみです。曲は、菅野祐悟さんの「flower」。藤原さんと日本フィルで2011年に初演されていますが、今回は改訂版での再演になります。作曲者の菅野祐悟さんは来年の大河ドラマのテーマ音楽を作曲されることになり、一段と注目が集まっています。今回は打ち合わせの段階から菅野さんにお会いできるとのことで、たいへん楽しみにしています。

菊池洋子さんは、以前から一度ご一緒できたらいいなと思いながら、なかなか共演機会に恵まれず、今回ようやく念願が叶うことになりました。菊池さんはモーツァルトをとても得意とされていますが、今回はアメリカの作曲家であるガーシュインとアンダーソンの曲をお願いしました。一見、モーツァルトとは遠い音楽のように思えるのですが、ガーシュインのジャズ的な面をはじめアンダーソンも音楽上の「遊び」がある、という意味ではモーツァルトと似ていると思うのです。なので、菊池さんならではのアメリカ音楽へのアプローチがあるのではないか、と思い、この2曲をお願いしました。ガーシュインと言えば圧倒的に「ラプソディー・イン・ブルー」が有名ですが、この「アイ・ガット・リズム変奏曲」もジャズの名曲をもとに展開される曲で、とても親しみやすい音楽です。ただ、演奏上の難易度は高いのですが(笑)

アンダーソンのピアノ協奏曲は、開けっ広げというんでしょうか、「ハ長調万歳!」「これぞアメリカ!」というような印象で、アメリカの国旗が浮かんでくる曲です。僕は名曲だと思うのですが、残念なことに演奏される機会がほとんどなく、東京では羽田健太郎さんが東京フィルと1996年に演奏されて以来、実に17年ぶりの演奏になるはずです。」


ヨーロッパでの活動・・・・スイス・ロマンド管との関係もますます充実し、また7月にはケルン放送響の定期演奏会も大成功と伺いました。今後の活動を少しお聞かせください。


「スイス・ロマンド管とは首席客演指揮者に就任してから2シーズン目を迎えるところですが、大変良好な関係が続いています。自分で言うのも変ですが「蜜月」の間柄というんでしょうか。彼らとは来年7月に日本ツアーを予定しています。スイス・ロマンド管の来日は1999年以来、15年ぶりとなりますので、是非「今」のスイス・ロマンド管を見て聴いて知っていただけたらと思います。
この日本ツアーの他にもハイライトとしては、今年12月にウィーンでのデビューが予定されています。ウィーン・トーンキュンストラー管弦楽団との演奏会なのですが、なんと夢の舞台、楽友協会(ニュー・イヤー・コンサートの会場)で演奏できるんです!
2009年のブザンソンコンクール優勝以来、目まぐるしくいろいろなことがありましたが、まさかこんなに早くあの「楽友協会」の舞台に立てるとは思ってもみませんでした。感激と同時に身の引き締まる想いです。

客演する海外オーケストラとしては、モスクワ・シティフィル、ロイヤル・ストックホルム・フィル、マルメ響、トゥールーズ・キャピトール管、ストラスブール・フィル、モンテカルロ・フィル、スペイン放送響、バーミンガム市響、ローザンヌ室内管、マレーシア・フィル、ロイヤル・スコティッシュ国立管などが予定されています。海外での演奏経験をもとに、毎回進化した形で日本のお客様の前に立てればと思っています。

まずは是非、9月13日の演奏会にお越しいただけたら大変幸いです。」