山田和樹の西方見聞録 2015年5月1・2日 ユタ交響楽団【アメリカ・デビュー】

長く待たなければいけない入国審査。一昔前のロシアもかなり時間がかかったものだが、今ではアメリカのほうが断然待たせられる。
そんなストレスを少し感じながらも一歩外に出てみれば、そこには「自由」の空気が。
アメリカ横断ウルトラクイズ』で見ていたような景色が眼前に広がる。雲一つない真っ青な空に、雪を被った高い山、緑溢れる丘。スケールが違う。

オーケストラのマネージャーが空港まで迎えに来てくれた。ものすごく親切な人で、話しているうちに疲れも吹っ飛んだ。
しかし今回は強烈なジェット・ラグ、時差に悩まされることになった。
日本からベルリンに戻ってすぐ二日後にアメリカに飛んだものだから、7時間+8時間の時差がのしかかってきた。普段は時差には強いと自負しているのだが、今回ばかりは参った。夕方の睡魔に負けて寝てしまうと、起きるのは0時前後。それから一睡も出来ないまま午前のリハーサルに突入していくことになるのだ。結局本番一日目に無理矢理調整して乗り切った。

オーケストラはすこぶる機能的で、何よりホールの音響が素晴らしかった。自分のいつもの調子でやると、金管楽器や打楽器が強くなり過ぎてしまうので、バランスに注意が必要だった。最初は弦楽器が薄いかなと思ったのだが、本番に向けてどんどん鳴ってきた。

自分の下手な英語にも熱心に耳を傾けてくれて、リハーサルは好調に進んだ。そして本番を迎える前に次回の話をもらえたのは本当に嬉しかった。
音楽監督であるティエリー・フィッシャーさん(元名古屋フィル常任指揮者)もリハーサルに来て下さった。初めてお目にかかったのだが、柔らかな素晴らしいお人柄に感銘を受けた。

地元密着のオーケストラという感じが強く、聴衆も熱狂的だった。前半のグラズノフが終わってスタンディング・オベーションになり、後半のサン=サーンスでは曲の終了と同時にお客さんが総立ちになったのにはビックリした。

印象的なアメリカデビューを迎えることが出来て、心底嬉しい。