第5弾 マーラー「交響曲第3番」の巻 その1
若きマエストロ、インキネンがフィンランドより無事来日しました。朝の事務所連絡メールに「インキネン来日しました!」と情報が流れ、マネジメント・スタッフ一同喜んでいます!
さて、ご無沙汰しておりました、「公演担当者と一緒に、オーケストラを聴こう。」シリーズ第5弾は、この第633回東京定期演奏会での演奏曲マーラーの《交響曲第3番>です。
事務所の会議室でのバーチャルつっこみコンサートの模様を、少しずつ、どうぞ!しゃべっているのは、「東京定期演奏会担当のマスミツさん」と、普段はエデュケーション・プログラムの担当をしている「音楽の森」スタッフです。
あわただしい午後、事務所会議室にて・・・
その1 全6楽章、100分、休憩なし、なんです。
マーラーのシンフォニーってのは、完成されているのが10曲。1・2・3・4・5・6・7・8・9と《大地の歌》。1楽章だけ残った未完成の10番も含めると一応11曲あるの。そのうち純粋のオケだけの曲っていうのは、1・5・6・7・9・10番。それ以外の作品には歌(ソロだったり合唱だったり)が入ります。
マーラーの第1シンフォニーは、(以前もここで話したけれど)結構複雑な経緯を経て成り立ったのだけれど、それでも伝統的な4楽章形式になってるの。ちなみに4・6・9番も4楽章。楽章数や編成だけでみると、「スタンダード」なシンフォニーは1・6・9番ぐらいのもので、あとは声が入っているか、楽章が多いかという・・・。マーラー本人が「集大成」と言い切った8番のシンフォニーなどは・・・
・児童合唱も入っているね。
♪・・・無言で聴く。
とまあこれが、俗に言う「千人の交響曲」の第1部の最後。まあ最終的にこういったとんでもないシンフォニー書くことになっちゃうマーラーですが、今回やる3番でも彼の壮大な音宇宙を聴くことが出来ます。
マーラーが35〜36歳の頃に書かれた交響曲。全6楽章から出来てます。で、第4楽章にはアルトの独唱が。なお今回はアンネリー・ペーポさんというエストニア出身の歌手が登場します。インキネン自らご指名の方です。以前名古屋万博の時に来日して以来だから、日本の皆さんにはあまりまだ知られていないかもしれないけど、ヨーロッパではアバドやムーティとも仕事をしている大歌手です。是非ご期待を。あとは第5楽章にはアルト独唱と児童合唱と女声合唱が入ります。で、今回の児童合唱はわが地元杉並が誇る名門「杉並児童合唱団」が参加します。女声合唱はこちらも有名な栗友会(りつゆうかい)合唱団の皆様。
・杉並児童合唱団って、あれだよね。「さんぽ」の合唱団。(←カラオケでよく歌うので、覚えています)
そうそう!
で、この曲、何と言っても演奏時間が長い。100分ですよ、100分。
・休憩なし?
休憩なし!そこは予め是非お気をつけください!通常コンスタントに演奏されるシンフォニーの中では一番長いですよ、100分ってのは。あとほかに120分の曲(例えばのブライアンの交響曲第1番《ゴシック》)とか、譜面はあるんだけど演奏されていないシンフォニーだったら7時間とかあるんだけども(ソラブジの作品)。
・100分なんてよくほんとに書いたねえ。
ホントにねえ・・・。で、今回配布される曲目解説を見てもらえば分かるんだけれど、マーラーは自然への賛美を口にした指揮者のワルターにむかって、「もう自然なんて見なくていいんだ、オレの曲の中にすべての自然の情景が入っているんだから」と言い放ったらしい・・・。
で、この曲もまたいろんな変遷を経ているもので、最初は7楽章形式になる予定だったんだけれど、「第7楽章」は、のちの第4番の第4楽章として生まれ変わっています。
じゃあまずこのシンフォニーを聴いてみましょうか。はじまり方からして、ちょっと異色なはじまり方をします・・・
・森の入り口みたい。
なるほどね。というか、その解釈合ってるかも。
・スコアをみると、いたるところにpppからfffといった極端なダイナミクスばかり・・・。
マーラーがそういうエキセントリックな人だったということ、かな。躁鬱の人ですからね。
で、とまぁ音楽はこんな調子で進むのだけれど。まずこの楽章の全体像の話をすると、とにかく長いんですよ、第1楽章が。約35分かかります。このミニチュアスコアだと、全編253ページなんだけど、126ページまでが第1楽章。ちょうど半分が、第1楽章で埋まっちゃうっていう・・・。元々はもっと長かったらしいんだけど、さすがにマーラー自身も「これってどうよ?」と思ったみたいで短くしたみたい、これでも。
この冒頭のホルンのユニゾンによるメロディ・・・。
・あれに似てる。ブラームスの1番!
そう。ブラボー。
これを短調にすると、ああなると。
・ほんとに同じリズムなのね。
まったく同じ。で、このあとにトロンボーンのソロが登場する。
・なんだか葬送行進曲みたいの、好きだね、この人(マーラー)。
うん。本当にね。元々この楽章に付いていたタイトルは「牧神の目覚め」だから決して暗い場面ではないと思うけど、やっぱりマーラーの音楽は死の匂いがする。
それにしても冒頭のホルンやトロンボーン、そして3楽章ではポストホルンのソロがあったりと金管勢が大活躍。今の日本フィルが誇る優秀な若手プレイヤーの妙技をお楽しみ頂きたい、と制作担当者は思うわけで。
で次が第3主題。木管に出てくる。
・それって、何小節目?
今探してるんだけど・・・。説明しながらだと見失っちゃうのよね、ページ数いっぱいだし・・・(苦笑)。
・あ、みつけた。次140小節。なんだか死刑執行の太鼓みたいね。
これ第4主題。クラリネット。もうしばらくすると一瞬明るくなる。マーラーらしく唐突にね。
・「巨人」がルンルン言ってる感じね(マーラー交響曲第1番「巨人」の巻参照)
もう少しするとホルンが出てきます。最初の主題が明るくなったでしょう。だんだん牧神が目を覚まして、と。
・基本的にずっと流れているのはマーチだよね。
弦が突然明るくなります。
・(なんだかディズニーのBe our Guestみたいな明るさです)
第1交響曲のハナシをした時に彼の人生についてはいろいろ聴いているわけなんですけれど、この第3番が作曲されたのが35歳。29歳〜35歳までの間に、どんなことがあったんですか。マーラーは。
いい質問ですねぇ・・・(池上風?)。当時のマーラーはハンブルグの音楽監督になったりとか、仕事上はキャリアを着実に積んでいた。でもそうこうしているうちに、14歳年下の弟がピストル自殺したり、とやっぱり死の影が近寄っている。結局マーラーは一生死に追われていた人なんだけれども。
でも一応この第3シンフォニーについてはあくまでも「自然賛美」の方に比重があると思う。6番とか7番行っちゃうとドンドン暗い方に行っちゃうのだけれど。長大な楽章だけど、4つの主題を覚えておくと愉しく聴けるかな、とは思います。
・この曲を主体的に愉しく聴くって、必要なのは「想像力」ですかね。
想像力と、あと繰り返しになるけど金管群の活躍を楽しんで欲しいですね。
・木管群はどうなんですか。
木管も大変ですよ。時々ベルアップとかしちゃうし。
・ベルアップって、なんですか。
音の出口を客席の方に挙げるんです。ダイレクトに。
・マーラーの身辺にはどんな自然があったんですかね。
マーラーはね、シュタインバッハってとこに住んで毎日自然に親しんでいたみたいよ。
・そこで得たものなのかしらね。
そこで本とかいっぱい読んでた。後に第4楽章で歌詞に出てくるニーチェとか。
今ここはヴァイオリンのソロですね。なお今回のコンマスは我らが江口有香さんです。こういうソロの掛け合いがたくさん。30分の間にものすごく表情があります。
・弦のアンサンブルも大変そう。
こうして通して聴いていると、すごいとりとめのない感じがするでしょ。
・こういうアタマの中をしていたのかな、てぽんぽんといろいろとんじゃって、いろんなものが目に入ってしまって、大変だったでしょうね。
それでも、限られた旋律を組み合わせているだけなんだけれど・・・
・パズルみたいに。
・・・金管好きにはたまらんです。このあたり・・・荒れ狂います。あ、ここは軍楽隊の音楽。
で、ここから再現部。最初のホルンのメロディが。森の自然もあるんだけど、いわゆる軍楽隊の、マーラーが幼少時代に近くに住んでいた軍楽隊のリズムも頻繁に出てきます。
・自然の向こうに軍隊が見える。
そうそう。まあ長いので、最後にいっちゃいましょう。(早送り)
・長い・・・歌手は最初から入場してるの?
いやマエストロによるけれど、今回は途中で入って頂くと思います。下手すると、50分近く舞台上で黙っていることになるのでね。
・・・終わりました。恐ろしい終わり方をするんですけれど。
・なんか、心の忙しい人だったんですね。色々な声が聴こえていたんでしょうね。この曲はブルックナーみたいに付け加えたり改訂したりということをせずに、ストレートにバーンと初演までいったんですか。
マーラーは基本的に「現場の人」なので、演奏しては自分で書き換えたり、棒ふれば変えちゃうから、最初のかたちと全く一緒とは言えないのでしょうけど。でも大幅な改定とかはないです。
第1楽章終わり。その2に続きます。