公演担当と一緒に、東京定期を聴こう 第7弾 ラフマニノフ「交響曲第1番」の巻 その1
第「1」番から始めます。ラザレフの刻む<ロシアの魂>
この日の「公演担当と一緒に」は、なにやらしずかな語り口ではじまりました・・・
この交響曲第1番は1985年つまりラフマニノフ(1873-1943)が22歳の時に書いた曲です。2番は1907年、彼が44歳の時。3番が1936年、63歳の時に書きあげました。そして交響的舞曲は最晩年の1940年、彼が亡くなる3年前に書かれました。つまりラフマニノフの交響曲はうまい具合に初期、中期、晩年に分かれ、それぞれの時代の作風を反映しています。ちなみに、ラフマニノフ自身の録音が結構残っているんですよ。彼が振ったシンフォニーの3番も残っているしピアノ協奏曲は全て自らソロを務めたレコードが存在します。そういう意味では非常に20世紀的な作曲家だし、作曲家自身の声(演奏)を聴く事ができるという点では私たちにも近しい存在ではありますね。
さてラフマニノフが今回取り上げる交響曲第1番を作曲したのが22歳。前半に演奏するショパンのピアノ協奏曲もショパン20歳の時の作品ですから、今回の定期は作曲家が二人とも非常若い時期に書かれたことが共通点です。そして片やロシア、片やポーランドを捨てて、郷愁はずっとあったけれど結局帰ることはできなかった。
●ラフマニノフの交響曲全曲2年かけて演奏、といっても交響曲は3つしかないんですね。
そうですね。交響的舞曲を含めても4曲。これらに加えてユースシンフォニーと呼ばれる彼が18歳のころに書いた曲もあるけど、これは第一楽章を書いたところでストップしてしまっている。この作品にもラフマニノフ節がしっかりあって、面白いのですが今回は割愛。
1番のシンフォニーというのは(後でちゃんと説明しますけれど)初演のときに大失敗した曲で、初演以降ラフマニノフは死ぬまで再演されなかった。2番は1番の失敗で神経衰弱になって曲も何も書けなくなった後、ダール博士の暗示療法を受けて傑作ピアノ協奏曲の第2番とほぼ同時期に書きあげたもの。あとでお聴かせするけれど非常にきれいな曲。その後ロシア革命などがあって、貴族出身の彼はアメリカに亡命をしてしまう。当時アメリカでの彼は作曲家としてよりもピアニストとしての仕事のほうが圧倒的に多かった。作曲に割く時間は少なくて、ピアノ曲の作曲はしていたけれど次の交響曲が仕上がるのは、2番から30年近く後のこと。
1番を聴く前に、なんとなくラフマニノフの交響曲全部さわりだけ、聴いてみましょう。
♪2番の第1楽章
●ラフマニノフの曲って、「オチがない」気がするんですけれど・・・
連綿と歌い続けますからね。第1楽章の冒頭からこれだけテンション高いです。
序奏だけで4分近くあるんです。既にとてもラフマニノフ的。
●なんだかロシアの歌な感じがする。
なんだけれど、チャイコフスキーほど土臭くないんですよね。やっぱりちょっと20世紀っぽい感触が入っている。計算された泣かせ方というか。
次に2番シンフォニーの第2楽章を。
♪交響曲第2番 第2楽章
●すごい疾走感・・・この曲はいつやるんですか。
来年3月の東京定期ですね。ちなみにカップリングはエルガーのチェロ協奏曲。ドロドロの(?)ロマンチック音楽2曲まとめてどうぞっという感じかな。
●それは、ラザレフ次の来日時ってことですね。
そう。
さて2番がいちばん2番らしいのは、この3楽章かも。
♪交響曲第2番 第3楽章
このメロディ一番有名。ポップスでもだれか歌ってたような・・・。
●なんかドラマのサントラっぽいですよね?
そうですね(笑)。
♪早送り〜
わたしが大好きなメロディはここです。いかにも泣け〜泣け〜って言っているような。
考えようによってはロシアの大地、って感じですけれど。
ただ4楽章になると、
♪交響曲第2番 第4楽章
やっぱりスラブ系の踊りというか。でもやっぱりチャイコフスキーほどの土臭さを感じなくて、誤解を恐れずに言うと「エンタテイメント」な匂いを感じるんですよね。
♪ 曲終わる
と、終わる。ラザレフが冗談半分で、この終わり方(ダン、ダンダカダダン!)は「ラッフマニノフ!」と言っているんだ、と言ってたっけ。確かにラフマニノフの特徴的な終わり方なんです。
では次に、3番の最終楽章だけ聴きましょう。
♪ 交響曲第3番 最終楽章
●なんだかハッピーな感じ。
ハッピーでしょ。この曲、ずっと聴いていたいのですけれど。なかなかメロディックだし、明るいし。テンション高いし。
●祝祭的ですよね。
♪ 曲終わる。
やっぱり、シンバルが、「ラッフマニノフ」の主題を奏する。シンバルは鳴るわ、小太鼓は鳴るわ。
●なんだか、63歳になったラフマニノフのほうが、元気な感じがしますね。だんだん元気になっている。
やっぱり、アメリカの文化に相当影響されたんだと思う。2番もかなり映画音楽的だと思うけど、3番なんかは、ハリウッド音楽そのものですよね。メロディとリズムに見て取れる洗練されたダイナミズムは、純粋にロシアという言葉だけでは解決されないと思うんですよね。この分厚いオーケストレーションとこの連綿と続くメロディ、そして聴き手を高揚させるリズム処理はハリウッド音楽専門の作曲家たちにも影響与えたのではないでしょうか?
その2に続く。
それでは第1シンフォニーに話を移しましょう。