公演担当と一緒に、東京定期を聴こう。第7弾 ラフマニノフ「交響曲第1番」の巻 その2

ラザレフもかく語りき「11日、12日の演奏で真の傑作であることを証明してみせる!」


公演担当者は、CDをとっかえひっかえして語り続けます・・・


交響曲第1番のオーケストレーション・・・、例えば木管の歌わせ方や重ね方は、チャイコフスキーの影響がすごく色濃いです。その一方で打楽器を活用したリズム処理には未来のラフマニノフ像を見て取ることができます。ですから、事前に第2番、第3番そして交響的舞曲を聴いた後で、第1番を聴いてみるという楽しみ方もありますね。
彼が22歳のときにこのシンフォニーは初演されたのですが、そのとき指揮をしたのが作曲家として有名なグラズノフバレエ音楽《ライモンダ》等がで有名ですよね。彼がまったくこの曲に対して興味が示さなかったようなんです。しかも酔っぱらっていたという話もあったりして・・・。とにかく演奏がひどかったようです。そして翌日の評論は滅茶苦茶。ロシアの5人組のひとりキュイが、「地獄に音楽院があって、エジプトの七つの苦悩、というテーマで交響曲を書け、という課題を出されたら、ラフマニノフの輝かしい成果は地獄の住民を熱狂させるだろう」というこれでもかというくらいの皮肉の批評を残しました。他の資料だと「演奏直後から会場は騒然となり罵詈雑言が飛び交った・・・キュイは主題の偏向さ歪んだリズム、凝りすぎた狂的な和声法・・・」ととにかく酷評だったわけですよ。

●そんなに嫌われなくちゃいけないのかな。

当時あった学閥同士のやっかみも関係していた、ともいわれているけど。とにかくこの「大失敗」のせいで彼はこのあと重度の鬱病神経症に陥りました。そのあとダール博士という精神科医による暗示療法によってピアノ協奏曲第2番を書けるようになり、そのあとにシンフォニー2番を書いて楽壇にカムバックするわけ。
それではまず1番の全楽章冒頭部分を聴いてみましょう。

♪これが交響曲第1番1楽章の冒頭

♪これが第2楽章の冒頭

♪第3楽章の冒頭

♪第4楽章の冒頭

一発でわかるでしょ。「タリララ〜ン」っていうこのリズムが一貫して出てくる。
では改めて第1楽章から。

♪ 第1楽章

(・・聴きながら)ちょっとなんか、ボロディンのシンフォニー2番に似てるんだな。重々しいはじまり方で。第1楽章はソナタ形式で、重々しい序奏があって第1主題が出てきます。ここはマーラーの6番にそっくり。分かる?金管楽器がジャジャーンって鳴ったあとに、真ん中の音、第3音が半音落ちるんです。長調で鳴ったはずなのに、真ん中の音が下がることによって短調になっちゃうわけ。これはマーラーの《悲劇的》と同じ。

♪第1主題

ちょっとしばらく聴いて下さい。ここが序奏が終わったところ。第1主題です。・・・いい感じでしょ?これはラフマニノフという作曲家の象徴的なメロディなんですよ。ちょっとこの作品の音を聴いて下さい。

♪ パガニーニの主題による変奏曲

●あ、グレゴリオ聖歌<怒りの日>のメロディ・・・

そう「怒りの日」。ベルリオーズ幻想交響曲にも第5楽章で出てくるし、先日小山実稚恵さんと演奏したリストの《死の舞踏》にも出てきましたよね。この旋律が第1主題にもつながるわけです。

♪ 交響曲第1番の続き

ここはフーガですね。

●神経質な若者だったのでしょうね。

でも自信はあったんだと思う。だからこそのっけから批判されしまって参ってしまったのかも・・・
あ、今のところなんかは、チャイコフスキーロメジュリの決闘シーンっぽい響きがする。

●いかにもロシアっぽい音じゃない?

たしかに。第1番交響曲が一番“ロシアの魂”を感じさせるかも。このシンフォニーでは、チャイコフスキーに憧れて書きました、というラフマニノフの作風が反映させていて興味深いですね。

♪ 第2楽章冒頭

これはロンド形式ABACAB・・・と進みます。
弱音器も活用して、ちょっとメンデルスゾーンの<真夏の夜の夢>のスケルツォを想起させるかも。

●木がさわさわさわ・・ってね。

例の“怒りの日”を意識したメロディもまた出てきます。フランクみたいに、「循環主題」といって、一つのメロディがいろんな楽章で一杯使い回しされて、構成感をだすというやり方。冒頭のタリララーン、というのもあれもそうですよね。今、ABA・・・のA、戻ってきましたね。

●いろんな楽器がとっかえひっかえ出てくるという面では、とても色彩感豊かに感じますね。

さて、第3楽章はラルゲット。

♪ 第3楽章

●森の中っぽい神秘的な音楽ですね。ロシアにも森はあるんですよね。ツンドラとか。 でも、静謐できれいな音楽。

きれいなんですよ。きれいなんだけれど、「口ずさめない」んですよね・・・。

♪ 第3楽章続く

この曲は作者の生前には再演されなかったけれど、ラフマニノフ自身は愛着があったらしくて、初演後に作り替えようとはしていたみたい。でも譜面置いてアメリカに亡命してしまったから、果たせなかった。で、ではなんでこうして演奏されるようになったかと言うと、亡くなった2年後、1945年に、音楽批評家がレニングラードの図書館でパート譜を見つけて再構成したんです。

●ロシアの20世紀の人たちって、ロシア革命からのごたごたと切ってきれないから大変ですね。

ラフマニノフショスタコもそういう意味では大変だった。チャイコフスキーはいい時期だったわけです。何か起こる前に死んじゃったし。
・・・・ま、これが第3楽章でした。では第4楽章。

♪ファンファーレ

●なんで、こうなっちゃうの〜

(笑)チャイコフスキーの祝典行進曲みたいだよね。


●マエストロ(ラザレフ)のこの第4楽章はどんな風になるのか、楽しみですね。

そうですね。ここら辺の色気は、ラフマニノフっぽいでしょ。弦とホルンの関係とか。


●ピアノみたいに持続しない音の楽器を専門にしていたひとが、いきなり音が続くヴァイオリンをもらって喜んで歌っているみたい。

ずっと連綿と歌っているのだけど急に早くなって、そのフレーズを繰り返し繰り返しやるって、すごくシンフォニー2、3番の最終楽章みたい。シンバルの使い方なんかも、ここにはラフマニノフの将来の姿が現れていると思います。

ラフマニノフは、ピアノ曲、オーケストラ曲のほかに、何を書いていますか?

ピアノ協奏曲と、あと、合唱とオーケストラのための合唱交響曲《鐘》とか、あと有名なヴォカリーズありますよね?オペラも《アレコ》とか《けちな騎士》とか。あとア・カペラ合唱のための《晩祷》もとても美しい作品です。

それにしても22歳でこの交響曲第1番を書いたというのは凄いですよ。楽器の使い方は後年までの芸風がちゃんと確立されているし。

♪ 曲、終わる。

●あともう1分前のところで終わればカッコいいのに・・・(笑)でもオーケストラフル活用している感じがして、すごく面白いフィナーレ楽章。会場で是非聴いてみたいですね。

☆これはたしかに。散漫な指揮で聴いたら、散漫な曲になるね。でも集中力をもって聴いたら、なかなか楽しげな曲だよね。そういう意味では、ラザレフの演奏で聴けるのはとても面白そうだな。

そう!ラザレフもこの作品が失敗作というレッテルを貼られていることに憤っているし、「今回の演奏で真の傑作であることを証明してみせる!」と記者会見でも息巻いていましたよ。請うご期待!