一緒に東京定期を聴こう 第8弾 ラン・シュイとドイツロマン派の巻 その1 メンデルスゾーン

オーケストラコンサートの企画担当者から、プログラムのこだわりを聞き出す企画「公演担当と一緒に、オーケストラを聴こう」も第8弾となりました。
会議室でCDをガンガンかけてつっこみながら開催する擬似コンサート、今日は周辺の曲を色々聴きながら語っているようです。


●まずはCDを聴いて下さい。

♪ マーラー 交響曲大地の歌

●なんで最初にこれを聴いて頂いたか、と言うと、じつは中国語で歌っているヴァージョンなんですよ。

これ?

●うん。多分一聴しただけでは分かり辛いと思うけど。ドイツ語とはちょっと違うかな、というのは聴きとれるかも。この録音で指揮をしているのが、今回のマエストロ ラン・シュイさんなんです。オーケストラは彼が音楽監督を務めているシンガポール響のものです。これがジャケット。

「大地之歌」って書いてある。

●そのままでしょう?ここに書いてある指揮者名、「水藍」、つまりラン・シュイですね。《大地の歌》は、もともと李白をはじめとする中国詩人の歌詞をドイツ語訳したものを使っています。いわばこのCDの演奏は「先祖返り」といったところ。面白いでしょう?日本でもこのCDについては少し話題になったので、「ラン・シュイ」の名前をご存知の方もいらっしゃるかもしれませんね。

マーラーが聴いたら喜びそうですけれど。

●喜ぶのか、怒り狂うのか、さぁどっちだろ?(笑)
エストロ・シュイは中国の学校を出たあとに、ボストンのタングルウッドの音楽祭やロス・フィルで修行してきました。デイヴィット・ジンマン(最近はチューリッヒ・トーンハレ管弦楽団との録音で有名なアメリカ人指揮者)や、日本フィルの客員首席指揮者であるネーメ・ヤルヴィのもとでも勉強されてきています。1997年からはシンガポール交響楽団の音楽監を、そして2007年からコペンハーゲン・フィルの首席指揮者を努めているといったように、実にインターナショナルな活動をされている方です。
シンガポール交響楽団などは日本人も含む世界各国の人種から構成されている国際色豊かなメンバーだそうですよ。

そして今回のプログラムですが・・・

●今回日本フィル東京定期に初登場して頂くにあたり、是非日本のお客様にもラン・シュイという指揮者を広く知って頂きたいな、と思っています。なので、プログラミングはあえてポピュラーな作品をセレクトしました。ある程度オーソドックスなものを聴いて頂きたいと思ったわけです。
シューマンのピアノ協奏曲とブラームス交響曲第1番に関しては日本フィルから提案をしました。「じゃあ他になにを?」と考えた時に、マエストロ側からメンデルスゾーンの《美しきメルジーネの物語》があがってきたのです。恥ずかしながら私はマエストロから題名を聴かされるまで、その存在すら知らなかったのです。さっそく音源を取り寄せて聴いてみましたが、これが実に面白い。

でも滅多に演奏されませんよね。

●でしょうね。大体11分ぐらいの曲です(《美しきメルジーネの物語》の大体のあらすじについては渡辺和彦さんの曲目解説参照)。

・・・鶴の恩返しみたいですね。

●全くその通り(笑)。クロイツァーという作曲家のオペラをメンデルスゾーンが観て、それをもとに彼は演奏会用の曲を作りました。メンデルスゾーンらしいオーケストレーションもよく聴こえるし、面白いです。第1主題が騎士の主題で、第2種台が騎士とメルジーネの愛をあらわしている、と今回解説を執筆された渡辺和彦さんは書いてらっしゃいます。
編成は2管編成です。テューバトロンボーンなしという典型的な前期ロマン派の楽器構成で書かれています。

日本フィルが演奏したことは?

●ほとんどないですね。一回あるかないか・・・。少なくとも現在のメンバーが演奏したことはありません。それだけに本番に期待して下さい。

マイナーなんだけど、東京定期のチラシの中でこの題名はなんだかインパクトあるんですよねぇ。

メンデルスゾーンの序曲はいろいろ有名なのもあって《真夏の夜の夢》とか《ルイ・ブラス》、《フィンガルの洞窟》などは日本でも演奏されますよね。でもこの《メルジーネ》も、よくよく聴き込んでみるとメンデルスゾーン好きにはたまらない、ほどよい「歌」と、ベトベトしない(?)上品なオーケストレーションで、コンサートのオープナーとしては素晴らしい選曲だと思いますよ。

メンデルスゾーンシューマン、そしてブラームスが一緒のプログラムをよく見る気がするんですけど・・・。

●仰る通り!メンデルスゾーンシューマンブラームスというのはそれぞれ繋がっているからね。メンデルスゾーンシューマンは友人同士のようだったし、歳も一歳しか変わらない。シューマンブラームスは師弟関係と言ってもよい間柄でしたから。

・・・そしてシューマンに続く。