公演担当と一緒に、オーケストラを聴こう第10弾 7月東京定期日本フィル・シリーズ再演企画 その2

次に山本直純先生の《和楽器管弦楽のためのカプリチオ》なんですけれど、これが全く過去の演奏の音が残っていない。


〇音源がないんですか?


舞台写真も残っていない。舞台写真だけでも残っていれば、かなり違ったんですけれど。で、楽譜も、かなりかわっているんです。直純先生のことだから、リハーサルとか聴きながらいろいろ書き足されたのでしょう、きっと。


〇ふうん。


編成はすごく変で、尺八、三味線、お琴。あと邦楽打楽器も入ってきます。やぐら太鼓、締太鼓、小鼓、大鼓とか。オルゴール、ドラムセット、ギターもあります。
面白いのはドラムス・パートに「フランキー」って書いてあるんです。どうやら初演から二年後の再演時にあのフランキー堺さんが担当されたようなんです。和楽器セットっていうのもあるんですよ。和打楽器がセットのように集まっている。その楽譜にも「フランキー」って書いてあるので、もしかしたら初演のときにフランキー堺さんが、ドラムスとともに和楽器のアドリブも叩いたのではないか、という説もあるんですけど・・・。今となっては全く分からない!


〇これ1963年ですから、日本フィル顧問の田邊さん弾いらっしゃるんじゃないですか。


弾いたかもしれないけれどよく覚えていない、とおっしゃってました。昔からの定期会員さんによると、三味線がポップスの曲を平然と弾くんですって。その当時のだれもが知っているような歌謡曲を。


〇今だったらAKB48とか?(笑)


・・・みたいなものを。相当変わった曲であることは確か。オーケストラが突然「おえおえおえ・・・」とか歌ったり、「えんやーこーら、えんやーこーら」と歌うところがあったりとか。ほぼ全てのプレーヤーが呼び子で音を出したりとか。


〇再演はしていないんですね。


なし。山本家にもお訊きしましたし、マネジメントにも訊いたのですが、音源は残っていない。だからやってみないことには分からない(笑)


〇そういう作曲家っていうのは、自分が作曲した通りに再演されよう、とは思っていないんでしょうかね。


特に直純先生は思っていなかったのかもしれませんね。


〇演奏時間何分ぐらいになりそうなんですか?


記録では25分程度のようです。でもアドリブもありますから、当日になってみないと判らないですね。

〇このとき、山本直純先生31歳ぐらい、ですか。


●そうですね。彼がトレードマークのヒゲ姿になる前、まだ若い頃です。片山先生の文にも書いてありますが、まだ直純先生が世にそんなに知られていないころの作品です。《寅さん》の音楽を書く前ですしね。最先端というわけではないですけれど、遊び心に溢れてる。きっと、音楽家の皆さんも楽しんでやってくださると思います。
大変だけれども、譜面を「読み解く」ということ、解読に近い状況ですよね。ライブラリアンが頑張って解読してくれました。彼女にはアタマがあがらないです、ホントに。
さて今回あえて1960年代の曲ばかり選びました。60年代というのは一番日本に勢いがあった頃。それだけに面白い作品もいっぱいあるのですが、再演されていない楽曲が結構あるんです。
本プロとは違う順番ですが、次に松村禎三の《交響曲》を。今回プログラム誌では《交響曲第1番》と記載します。「日本フィル・シリーズ」として委嘱されたときは《交響曲》だったのですが、80年代に《交響曲第2番》を書かれたのです。
最近では《沈黙》というオペラが再演されて非常に大きな話題になった村松氏。映画音楽も書いらっしゃいます。《忍ぶ川》とか《息子》といった作品の音楽です。
これから聴いてもらうのは《管弦楽のための前奏曲》という1968年に書かれた作品。「交響曲第1番」の3年後に書かれたもので、尾高賞をうけた彼の代表作です。ゲルギエフがマリンスキー劇場のオケと来た時に演奏しましたね。


松村禎三 管弦楽のための前奏曲


〇松村先生も偉いひとなんですよね。写真をみると若干大学の先生っぽい。
青島広志さんの先生じゃない?

一聴してわかるように、一本の線がツタが絡むように動いて、反復・増幅してゆく特異な音楽ですね。

■響きが好きですね。こういうのに溺れるのもいいね。どこまでも墜ちるというのが。

△そういう聴き方もあるか。


この《交響曲第一番》が松村先生の最初の大規模な曲です。ちなみに1984年にも《チェロ協奏曲》を「日本フィル・シリーズ」として書いてくださいました。


松村禎三 交響曲第一番 第一楽章


短2度で重なっている音の周りをいろんなパートがぐにゅぐにゅと集積されていく。宇宙空間に放り投げられたような感じですよね。


松村禎三 交響曲第一番 第一楽章 続き


かなり凄まじいでしょ。ベートーヴェンみたいに、メロディをどう発展させていくかという代わりに、主役のない、ありとあらゆる無数のものがいきなり音を出して来てそれの中からどう音楽を作って行くか、という逆の発想に近い。幹があって木になるかということではなくて、周りの魑魅魍魎から音楽を作って行くという感じ。


〇指揮者の下野竜也さん凄いですね。こういうのを4曲も振るんですから。


大変だと思いますよ。どうなるんでしょう。


△よそでやらないことをやる、というのが今の下野氏のスタンスのようですし。日本フィルとはこれをやる、と選んで下さったというのは光栄ですよね。
■でも、面白そうですね。


面白そうでしょ?


〇演奏時間は?


25分です。で、第1楽章はこういう宇宙的な爆発で終わって、第2楽章は4分ぐらいで終わっちゃうんです。これ。


松村禎三 交響曲第一番 第二楽章


ハープとフルート、弱音器をつけたヴィオラとピアノがメイン。楽章の構成は急緩急にはなっている。3楽章形式。第2楽章はこうして大人しく。第1楽章との対比が壮絶ですよね。


松村禎三 交響曲第一番 第三楽章


★私には不協和音に聴こえるんです。ただ不協和音と言ってしまえばそうなんだけれど、「つたのような」とか、そういう法則、違う視点で助けにできれば、なるほどそういう観点から見れば面白いかと。洋の楽器に加えて和の楽器が入っているとか、今回じゃないとなかなか聴けないものなんだ、という違う視点から見ればなんか糸口があるかな、と。クラシックのスタンダードなものを聴こうと思ってこれを聴くのはショックだけれど、事前に知って来て頂ければまた面白いですよね。


松村禎三 交響曲第一番 第三楽章 最終部(鐘の音が遠ざかって終了)


チューブラベル大活躍!


△ほぉ〜。やりますねっ、松村先生。


そうでしょ。写真見ると穏やかな紳士なのに、曲を書くとかなり豪快。そこが不思議ですよね、作曲家って。


〇何回も日本フィルから委嘱されている人もいるんですね。


松村氏と三善氏、そして間宮芳生氏と吉松隆氏は2回書いてます。


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さて最後に、戸田先生の曲を聴きましょ。今回勉強して知ったのですが、彼は外交官だったんですよ。12音技法を初めて日本に輸入した人物として有名です。
今回の合奏協奏曲《シ・ファ・ド》は、スイスの作曲家マルタンの《七つの管楽器と弦楽とティンパニのための協奏曲》に似てるね、という話を下野さんと片山先生がしていました。片山先生の解説に書いてありますが、バス・クラリネット、コール・アングレ、トランペット、ビブラフォン、ピッコロ、ヴィオラという、ほとんどが普段あまりメインで登場しない楽器をあえて選んでいる。そのあたりが面白いですね。ちょっと聴いてみましょう。


♪戸田邦雄 合奏協奏曲《シ・ファ・ド》


これは日本フィルでの初演ライブ録音です。


〇当日楽譜を提示する予定ですよね?


はい。


ソリストは6人が前に並ぶんですか。


はい。今回は全員日本フィルの楽員がソリストを務めます。そう意味でもとても楽しみな演奏会ですね。

(次の委嘱は誰に?という話で夜は更けていくのでした)

第10弾終わり

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