山田和樹の西方見聞録 2014年10月29・31日 スイス・ロマンド管弦楽団

7月の日本ツアー後、新シーズンになって初めての顔合わせ。
フランス的ジョークで「もう随分前のことだなあ」と言う団員もいながら、拍手で歓迎してくれる。
日本ツアーで制作したTシャツを着てくれている人もいて嬉しい。

今回はコンチェルトをメインにしたプログラム。
藤倉大/Rare Gravity(スイス初演)
ルーセル/「バッカスとアリアーヌ」第2組曲
ブラームス/ヴァイオリン協奏曲(独奏:バイバ・スクリーデ)

藤倉大氏(年上なのだが「大ちゃん」と呼ばさせていただいている)も家族一緒に駆けつけてくれた。彼と会うとなるとこちらも気合いが入る。というのは、大ちゃんはもの凄く頭の回転が早く、ジェットコースターのような会話になるのが必至だからだ。今回も多岐に渡る話が出来て刺激的だった。
肝心の演奏は、日本での世界初演とはまた違った趣になって面白かった。やはり本拠地ヴィクトリア・ホールでの演奏は、目に見えない何かの作用が起こり、独特の雰囲気が漂うのだ。
この作品は年明けにチェコ・フィルでも演奏が予定されていて、その時も大ちゃんが来てくれるという。

ルーセルブラームスは、2週間前にリヨン国立管弦楽団でも演奏したばかり。意図した訳ではないのにプログラムが重なる、という偶然がまた面白い。
今回リハーサルが始まるまで知らなかったのだが、ルーセルの「バッカスとアリアーヌ」第2組曲は、1985年から12年にわたってオーケストラと相思相愛にあった音楽監督アルミン・ジョルダンの時代の定番レパートリーだったそうだ。それからはあまり上演されていないとのことだったが、あたかも日々慣れ親しんでいるようなサウンドが広がる。今回初めて演奏するメンバーも多いのに、確実にオーケストラに染み込んでいる伝統というのがあるのだな、と感心した。
特に第2組曲に関しては、注意していないと、ただうるさいだけの曲になってしまいがちなのだが、二日目の本番などでは、静かな部分の色合いや雰囲気も良く出ていたと思う。

ブラームスのソロはバイバ・スクリーデ。僕の希望で招聘が実現し、スイス・ロマンド管とは初共演になる。
彼女とは2年半前にワイマール歌劇場管とコルンゴルトの協奏曲で共演して、すっかり魅せられてしまった。彼女には不思議な魅力があり、音だけでなく身体から音楽が放射されているようで、実にオーソドックスに演奏するのに、極めて高い集中力を維持することが出来る。
今回も実に「芯」の通った、伝統に根ざしたブラームスを聴かせてくれた。彼女のように演奏中に「会話」が出来るソリストとの共演は本当に楽しく嬉しい。

スイス・ロマンド管とは今シーズン、12月・1月・5月・7月に共演する予定だ。