一緒にオケを聴こう。第1弾 東京定期 その2
オケ公演担当者。
この不思議な人種と一緒に、今回は11月12,13日東京定期を聴きましょう。
その2
ブルックナー、3つのおっきな特徴を聴き比べよ
担当:一つが 「原始霧」 。っていう、・・・一番象徴的なのが、4番の頭だからちょっと聴いてみて。
遠くからホルンが聞こえているみたいな雰囲気。
要は、弦楽器のちっちゃなトレモロの音なんだけれど。
これがシンフォニーの7番になるとどうなるか。
おや同じ。すごく固執してる。
あと、「ブルックナー・リズム」。
要は、3連符。2拍3連のダーダーダ、ダーダーダ、っていうリズムです。
これも4番の第1楽章なんだけれど。
これから盛り上がって、オーケストラがTuttiで主題を奏でるところなんだけど、これがね、
(と、さっさとCDをかける)
お、「重たい」のね。
そう、分厚い音で3連符やるから、すごく重たいのね。
なぜ今この話をするかというと、あとで8番でもこの話題が出てくるから。
もう1曲だけ、象徴的なのを聴いてもらいましょ。あんまり演奏されないんですがシンフォニーの6番の第1主題の部分を・・・。笑っちゃうぐらいスターウォーズっぽいんだけど。
これもだんだん盛り上がって再現部に突入するところ。
映画音楽っていうか、スペクタクルなものが好きな人は、面白いだろうね
・・・とまあ、こうなるわけ。でその原始霧だったり3連符とかだったりがすごく特徴的な雰囲気をつくる。
シンフォニーってのは第1主題、第2主題があるんだけど、彼の場合は第3主題まであるんです。その主題が5番の最終楽章では全部絡んでくる。その最たるものが、日本フィルもビエロフラーヴェク指揮でやった5番。
(と、次々にひそんでいる主題を暴いていく。それにしてもこの曲も、主題への固執が)
最後の部分はほとんど弦が聴こえないでしょう?木管もほぼ聴こえないんですよ、吹いてるのに。金管がほぼずっと叫びっぱなし。
・・・なんかその、部分部分はすごくきれいでキャッチーなんだけど、長いという理由だけで敬遠されちゃうというか、聴かない人は聴かないのよね。
最後の最後で木管が上行音型でどんどん上ってんだけど、聴こえないのね。
指揮者によってはわざと金管の音を落として聴かせたりする。
で、ブルックナーの難しいところってのは、今言ったみたいに金管とかいろんな主題が重層的に出てくるので、それを交通整理しなければいけないというところ。
耳のいい指揮者でないとただの響きの塊になってしまうんですよ。
1回出てきた主題をこっちでは長さ2倍にして、こっちではひっくり返してって、楽譜の上で理屈こねている感じがするんですけど、聴いたらどうなるだろうってことをあんまり想像しなかったのかな。楽譜上の形に酔ってたみたいなところってないのかな。
ははは。あるかもしれないね。大先輩がそうやってたから。ベートーヴェンとか。
あのさ、「ここにこの音型がでてきて」とかいうことが分かっていると、すごく主体的に聴けると思うんですけれど、じゃまず、東京定期に来た事がない人に、ブルックナーの8番やってるよ、来てよっていう場合に、どうしたらいいんでしょうね?
やっぱり、まずこの、特徴的な3つの要素(原始霧、ブルックナー・リズム、そしてこれから紹介するブルックナー・パウゼ)だけ、分かってればいいと思う。それだけでもだいぶ違うと思いますよ。
その3つめの要素。この 「ブルックナー・パウゼ」 。これもあとで8番に関わってくるんだけど。今これ5番で弦が静かーなメロディ弾いてるんだけど、その後で突然、一瞬休みが入る。そのあとどうなるかって言うと・・・
大音響
ってなるわけ。で、また休憩しちゃう。で、
大音響
で、また休憩。
てなるんだけど、なんでこうなるかって、普通の作曲者だったら接続方法を、考える訳ですよ。
だけどオルガニストだったブルックナーの場合、この休止はオルガンの「ストップ」を変えている休止と言われてる。ストップ変えて弦のトゥッティ、またストップ変えて、次は金管が出てくる、とか。
オルガンの音楽の作り方が身に付いちゃってて、そういう風に頭の中で鳴り響いてた訳ですね?
そうかもしれない。だから指揮者によってはわざとオルガンの音に近づけた音楽づくりをしたりする。
オルガンの音の種類を知っているか知らないかで聞き方がかわってくるかもね。
この休止ってのは、ゲネラルパウゼ(総休止)なの?
いろんな書き方があるんだけど。8番でいえばちゃんとフェルマータで書かれているところが多い。
実際に指揮者が休止を振るときってのは、デジタルに「1、2、3、4」って考えているんじゃなくて、結構邦楽的に・・・
それがね、そこがだから面白いところなのよ。指揮者によって全然違う。
「間」なのね。
やたらめったら長い人もいるし、譜面通りな指揮者もいる。
(楽譜を指し示して)ここは、普通の休符でしょ。でもここはあきらかにフェルマータがある。
武満徹の曲に《ノヴェンバー・ステップス》っていう作品があるけど、あの譜面オケの部分には「Keep Silence」ってわざわざ大書きしてることもある。
ブルックナーではいきなり総休止ってのがよくある話。
一つのイメージとしては、さっき言ったようにストップを変える間っていうこと。
だんだん後期のシンフォニーになるとそれが嫌らしくなく聴こえる。
初期のシンフォニーだとそれがあからさまなのね。だから仲間内で気に入らないとか言われて改変されちゃったりするんだけど。
ブルックナーのシンフォニーの大きな特徴ってのは今の3つ。
幻想的に霧ではじまって、荘厳な重たい3連符やって、間の文化、ね。それが入った複雑な楽譜を交通整理していって、指揮者による違いも面白いと思う訳だ。なるほどね。そうやって思うと、聴けるよね。