公演担当者と一緒に、オーケストラを聴こう。 第4弾《春の祭典》の巻 その3

ハルサイサウンドに浸ろう

ブルックナーの時には口酸っぱく主題がどうとか、動機はどうとかいう話をしたけれど、ハルサイの場合はもしかしたら「サウンド感=響き」そのものが重要かもしれない。
ストラヴィンスキードビュッシーも100年前は現役で活躍していたわけだけれど、その頃というのは非常に面白くて色々なスタイルの音楽が生み出されている。12音技法やジャズもその一部だけれど、例えば今度我らがラザレフが取り組むラフマニノフの場合・・・

Rachmaninov:2nd movement from Symphony No.2

聴いてわかるとおりとっても美しいメロディに溢れてる。同じロシア人で20世紀に活躍して、二人ともアメリカに亡命したけれど、全然作風は違う。強いて言えばロシア民謡っぽいものを使うということは共通しているけれど。ラフマニノフは徹底的に人の感情を揺さぶる究極のロマンを目指したのに対し、ストラヴィンスキーは「情」というものを超越した絶対的な音楽を志向したとも言えるかもしれない。

■・・・まあ、今回の「ハルサイ」ですが、とにかく、浸れと。
そうね。「メロディは忘れろ」っていう台詞が、《シャネルとストラヴィンスキー》にもあったでしょ。指揮者のモントゥーが「オレだけを見てればいいんだ」って。これは極端かもしれないけれど、ブラームスチャイコフスキーを聴くようにメロディを楽しむというよりは、オーケストラというメディアが生み出す摩訶不思議な律動と響きを体感してほしいですね。

ストラヴィンスキーはこの「ハルサイ」の前にはどんなものを作り、その後はどんなものを作ったんですか。
そもそもリムスキー=コルサコフの弟子なんですよ、ストラヴィンスキーは。まずリムスキー自身がオーケストレーションの有名な本を書いているような人なので、弟子であるストラヴィンスキーもまず煌びやかなオーケストラ曲を書いて世に知られたわけ。その頃の代表作は《火の鳥》と《ペトルーシュカ》。両方とも《春の祭典》同様バレエ・リュスのために書いた。
火の鳥》でも相当チャレンジングなオーケストレーションでやっているけれど、まだメロディがあるし、ロマンティック。その後2作でストラヴィンスキーのバーバーリズム(原始主義)的な面が完成された。
彼の面白いところは、その後突然「新古典主義」と呼ばれるスタイルに行ってしまうところ。《プルチネッッラ》とか《ヴァイオリン協奏曲》とかはその代表作。《プルチネッラ》はペルゴレージらが遺したバロック時代の音楽を元ネタにつかって、それはそれはきれいな音楽を書きあげた。ただそこには20世紀のスパイスがチラっと。

■ほのかな嫌み(苦み?)があるよね。
素直では決してないよね。そして新古典にいったあとは、ジャズや12音技法にも興味をしめしている。12音技法というのは、調性音楽にある音の序列をなくして全部の音を平等に使うという技法ね(かなり大雑把な説明だけど)。ストラヴィンスキーは当初12音技法には批判的な立場をとっていたんだけれども、結局自分がやりたいことやりつくしてしまったもんだから、12音技法にいかざるを得なくなって・・・。晩年は結構その手の曲があるんだけれども、あんまり日本でも世界でも、残念ながらあまり人気ないな。あまりにも《火の鳥》や《春の祭典》の印象が大きすぎるのもその原因かも。
(続く)

メロディーを忘れて、一緒に浸りましょう。
シズオ・Z・クワハラさん東京定期デビュー、ライヒとハルサイです。←演奏会情報はこちら